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阪急トラベルサポート事件 について、最高裁は、平成26年1月24日に、事業場外労働に関する労働時間のみなし制度(労基法第38条の2第1項)が適用されるために必要となる「労働時間が算定し難いこと」という要件について、初めて判断しましたので、本判決(最二判平成26年1月24日判時2220号126頁)を簡単にご紹介致します。本件に関する過去記事は事案の概要
この最高裁判決は、一般に、「阪急トラベルサポート事件 」と呼ばれ、募集型の企画旅行の添乗業務に従事していた労働者が、使用者に対して、時間外割増賃金等の支払い等を求めて提訴した事案です(第1事件から第3事件があり、本判決は第2事件の上告審です。後掲関連判例をご参照ください)。
これに対して、使用者は、添乗業務が、労働時間が算定し難い場合に該当するため、事業場外労働に関する労働時間のみなし制が適用されるとして、労働者の請求を争い、原々審の東京地判平成22年7月2日 (労働判例1011号5頁)では適用を認め、原審の東京高裁平成24年3月7日(労働判例1048号6頁)では適用を否定して結論が分かれていました。
阪急トラベルサポート事件 最高裁判決の内容
最高裁は、添乗員たる労働者が、
① 常時、電源を入れることを命じられている会社から貸与された携帯電話を携行していること以外にも、
② 労働者が、予め使用者が定めた詳細なスケジュールに従って行動することが予定されていること
③ 労働者がスケジュールを変更しなければならない場面においても、労働者にはスケジュール変更に関して与えられている裁量が極めて小さいこと
④ 労働者の実際の行動については、同人が記録する詳細な添乗日報によって把握することができる上、添乗日報の正確性については、ツアー参加者のアンケートや関係者への聴取によって担保されること
等の事実を認定した上で、
- 「業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等」
- 「本件会社と添乗員との間の業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等」
に鑑みると、本件添乗業務については、これに従事する添乗員の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難く、(中略)「労働時間を算定し難いとき」に当たるとは言えない」として、使用者の主張を退けました。
上記最高裁判決は、阪急トラベルサポート事件 の事実関係のもとで労基法が定める事業場外みなし労働時間制が適用されるか否かについて判断したに過ぎず、広く一般に通じる判断を示したものではありません。
しかしながら、事業場外みなし労働時間制が適用されるために必要となる「労働時間を算定し難いこと」という要件については、近年、携帯電話等の通信機器が普及したことによって、使用者が労働者の労働時間を把握することが困難なケースは以前と比べて少なくなってきており、この要件の該当性については、議論されてきたところですので、この最高裁判例は、実務上大いに参考になる判例といえるでしょう。
今後の対応
この最高裁判決を受けて、改めて、会社としては、従業員が事業場外で労働する場合であっても、その従業員による事業場外での行動等について、詳細にわたって予め把握していることも多く、さらに、通信機器を使用して逐次報告受けることも可能ですので、現在においては、事業場外労働に関する労働時間のみなし制度が適用される場合は少ないと考えておいた方がよろしいかもしれません。
関連判例
- 東京地判平成22年5月11日労判1008号91頁阪急トラベルサポート(第1)事件
- 東京高裁平成23年9月14日労判1036号14頁阪急トラベルサポート(第1)事件
- 東京地判平成22年9月29日労判1015号5頁阪急トラベルサポート(第3)事件
- 東京高裁平24年3月7日労判1048号26頁阪急トラベルサポート(第3)事件
2014年7月17日