1.2 各種手当てと割増賃金の算定

1.2 各種手当てと割増賃金の算定社長のための残業代対策119番前回までにみたとおり、労働基準法37条によると、割増賃金は、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額に、所定の割増賃金率を乗じた額とされています。
それでは、給与明細に記載されている各種手当は、上記の「賃金」に含まれるのでしょうか。

労働基準法と厚生労働省令

労働基準法37条5項と厚生労働省令が、割増賃金の基礎となる賃金に算入しないものを定めています。

  • 労働基準法37条5項によるもの
    家族手当
    通勤手当
    その他厚生労働省令で定める賃金
  • 厚生労働省令(労働基準法施行規則21条)によるもの
    別居手当
    子女教育手当
    住宅手当
    臨時に支払われた賃金
    一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

これらは法律で定められているものですが、除外できるかどうかは手当の名目だけで判断されるものではありません。これらのうちいくつかの問題点を見てみましょう。

  • 家族手当
    扶養家族を基準として算定される手当のことをいいます。名称が家族手当でなくとも(生活手当等の名称で支給される場合もあります)、扶養家族数に従って支給されるものは除外できます。
  • 通勤手当
    距離に応じて支出されるもののみが除外でき、一律に支給される場合には割増賃金の算定基礎となります。
  • 住宅手当
    賃料額やローン月額に従って支給されるもののみが除外でき、一律に支給される場合には割増賃金の算定基礎とされます。
  • 臨時に支払われる賃金
    支給事由の発生が不確定なもののみが除外できます。勤勉手当のように、支給の有無・額が従業員毎に異なるものであっても、それだけを理由に臨時に支払われる賃金とは言えません。
  • 一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金
    精勤手当、勤続手当等のうち、1か月を超える期間の成績によって支給されるものであれば、1か月をこえる期間ごとに支払われる賃金として除外できます。
    賞与については、1か月を超える期間の成績に応じて支給されるものであれば除外できますが、支給額が基本給を基準に一律に支払われる場合には除外できません。

解釈により算定しなくてもよいとされているもの

また、労働基準法・厚生労働省令に定められているものではありませんが、割増賃金の基礎に算入しなくてもよいと解釈されているものがいくつかありますので、見ておきましょう。

  • 特殊作業手当・危険作業手当
    特定の作業に対して付加的に支払われる手当については、問題となる時間外・休日・深夜の労働時間にその特定作業がなされた場合には、割増賃金の基礎に算入されますが、時間外・休日・深夜の労働時間にその特定作業以外の作業をした場合、特殊作業手当・危険作業手当は割増賃金の基礎から除外できます。
  • 所定労働時間外労働に対する手当
    所定労働時間を超え法定労働時間に至るまでの労働に対する手当を定めている場合、除外できると解されています。
  • 法定外みなし割増賃金
    法定外みなし割増賃金を支払っている場合には、割増賃金の算定にあたってはこの分を除外できます。法定外みなし割増賃金として認められるかどうかは、名目ではなく実質によって判断されることになります。

まとめ

これらをまとめると、下記の表のようになります。

根拠規定 除外できる手当等 注意点
労働基準法37条5項 家族手当 扶養家族を基準に算定される手当。生活手当といった名称の場合がある。
通勤手当 距離によって算定されるもの。一律に支給されるものは不可。
労働基準法施行規則21条 別居手当
子女教育手当
住宅手当 賃料額やローン月額に従って支給されるもののみ。一律に支給されるものは不可。
臨時に支払われた賃金 支給事由の発生が不確定なもののみ。勤勉手当は△。
1か月を超える期間ごとに支払われる賃金 1か月を超える期間を基準に支払われる精勤手当、勤続手当はOK。 賞与は、基本給を基準に一律に支払われるものは不可。
解釈 特殊作業手当・特殊危険手当 問題となる時間外・休日・深夜の労働時間にその特定作業がなされた場合には、割増賃金の基礎に算入されますが、時間外・休日・深夜の労働時間にその特定作業以外の作業をした場合には特殊作業手当・危険作業手当は割増賃金の基礎に算入されない。
法内残業に対する手当 所定労働時間を超え法定労働時間に至るまでの労働に対する手当を定めている場合、割増賃金の基礎に算入しなくてもよい。
法定外みなし割増賃金

このように、明文のあるものや解釈により、割増賃金の算定基礎からの除外が認められているものがありますが、いずれも名目によるのではなく実質によって判断されることになります。担当者や経営者の方は、会社で割増賃金の算定が正しく行われているかどうか、一度確認してみてはいかがでしょうか。

(弁護士 鶴間洋平)