労働時間の記録方法
残業の場面においては、労働者側が主張する労働時間と、使用者側が主張する労働時間に食い違いが見られることが往々にして見られます。使用者は、労働者の労働時間を、どのように記録しておくべきでしょうか。
労働時間の記録の法律上の位置づけ
厚労省の基準
厚労省は、労働基準法の規定から「使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有していることは明らかである」として、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」を策定しています。この基準を遵守しているかどうかは、労基署による指導等がなされるかどうかの判断基準となりますから、遵守すべきことはいうまでもありません。
残業代請求の場面
一方で、残業代請求の場面では、使用者側の労働時間に関する主張、つまり、「労働者の主張する労働時間は、実際の労働時間と異なる」との主張は、法律上、「否認」という位置づけになります。民訴規則第79条3項は否認には理由を付けることを要求しています。
主張・立証に関する法律上の原則からすると、本来であれば、残業代の支払いを請求すべき労働者が自身の労働時間について立証する必要があり、使用者が積極的に証拠資料を提出する必要はないようにも思えます。
そして、例えば、労働者が自身の日記やメモのような記録に基づいて労働時間を立証しようとすることがよくあります。
このような、日記やメモのような記録は、主観が入り混じりやすく、証明力が低い証拠です。
そうであれば、使用者は、労働者が提出する日記やメモの信用性は低いことを主張すれば、それで足り、使用者から、積極的に「労働者の実際の労働時間は○○時間であった」と立証する必要はないようにも思われます。
しかしながら、残業代請求の実務上は、事実上、使用者側において、積極的に労働者の労働時間の立証を求めているような傾向にあります。
そうすると、使用者側において、労働者の正確な労働時間を把握することが必要となり、そのためには、労働時間の証明力が高い客観的な資料が不可欠となってきます。
何によって記録する?
タイムカード
労働時間の立証において用いられる証拠の代表格として挙げられるのは、タイムカードです。しかし、タイムカードは、従業員がいつからいつまで社内にいたかを記録したものにすぎません。
とはいえ、裁判実務上、タイムカードによって計算された時間が労働時間であると強く推定され、これを否定するには特段の事情を立証しなければならなくなります。
そして、タイムカードによって労働時間を計算できるのは、タイムカードによる出退勤管理をしていたことが前提になりますから、管理をきちんとしておかなければいけません。
最近では、タイムカードに変わって、ICカードの記録やPCの稼働時間によって労働時間を管理するケースもありますが、タイムカードと同様に、これらによってきちんと出退勤管理をするように態勢を整えて社員を指導する必要があります。
その他記録しておくべき資料は?
労働時間の管理のためには、休日出勤・残業を許可制にする場合があります。この場合には、必ず書面による許可を得るようにするとともに、許可を得ないまま残業するようなことがないようにチェックする必要があります。
なお、このような労働関係に関する重要な書類は、3年間の保存義務が定められており(労基法109条)、これに違反すると、30万円の罰金に処せられることとなりますので(労基法120条1号)、ご注意ください。
(弁護士 鶴間洋平)