4.6 民事訴訟

4.6 民事訴訟社長のための残業代対策119番今回は労働者が残業代の支払いを求めて司法による紛争解決を求めてきた場合について、勉強しましょう。

民事訴訟の種類

労働者と使用者との間における残業代請求に関する交渉が不調に終わったり、当事者の一方が、先にご紹介した労働審判手続における審判結果に異議を述べた場合には、訴訟手続を利用して解決を図ることとなります(もちろん、残業代請求については、訴訟手続の前に、労働審判手続を利用しなければならないとの決まりはないため、労働審判手続を経ずして、訴訟手続が利用される場合もあります。)。

一般に、民事訴訟と言えば、各期日において、両当事者の主張及び証拠が順次提出され、その中で、和解を検討し、和解が難しい見込みとなれば、証人尋問を経て判決が出されるものであり、判決までに、少なくとも1年程度を要する手続ですが、迅速かつ簡便に解決を図るために、労働者は、少額訴訟や、支払督促という手続を利用して、使用者に対し、残業代請求をすることもありますので、今回は、少額訴訟と、支払督促について、ご説明したいと思います。

少額訴訟

少額訴訟は、請求する残業代の額が、60万円以下の場合に、利用することができる民事訴訟の類型の1つです。

この、少額訴訟は、迅速に紛争を解決するために、手続が通常の訴訟に比べ簡易なものとなっています。

例えば、企業側が残業代を請求した従業員に対し、何か債権を持っている場合、通常の訴訟ですと、「反訴」といって、従業員が提起した訴訟を利用して、企業が当該従業員に対して、逆に訴訟を提起することが可能ですが、少額訴訟ではそれが禁じられています(民事訴訟法369条)。また、主張も1回目の裁判で全てし尽くす必要がある上(同法370条2項)、提出できる証拠も、1回の期日で全て取り調べることができる証拠に限られています(同法371条)。さらに、少額訴訟における判決には、控訴をすることができません(同法377条)。

なお、少額訴訟の被告は、当該少額訴訟を、通常の訴訟へ移行することを申し出ることができます(同法373条1項)。

支払督促

支払督促は、債権者の主張を債務者が争わないことを前提として、債務者の主張

等を聞くことなく、債権者の申立てのみで、判決と同様の効果を与える手続です(民事訴訟法382条)。

すなわち、労働者が使用者に対して残業代支払請求権を有する場合、労働者が、支払督促を利用すると、裁判所は、労働者の申立てのみで、使用者に対し、労働者が主張する残業代支払請求義務を認めることとなります。

債務者は、支払督促の内容に不服がある場合には、債務者が支払督促の送達を受けた日から2週間以内に、督促異議を申し立てなければなりません(同法386条1項、387条、391条1項)。

督促異議が適法であると認められた場合には、支払督促申立てのときに、訴えの提起があったものとみなされ(同法395条)、以後、通常の訴訟において、審理がなされます。

<民事訴訟(特に、少額訴訟又は支払督促)を受けた会社の対応策>

まず、少額訴訟には、通常の訴訟と異なり、反訴の禁止や審理期日及び提出できる証拠に多くの制限があるため、じっくりと従業員の主張の当否や提出すべき証拠を検討したい場合は、通常の訴訟への移行を申し出ることをお勧めします。しかし、会社において、従業員の請求を争うつもりがない場合には、会社側の資力状況等によっては、通常の訴訟とは異なり、判決において、分割払いが定められたり、訴え提起後の遅延損害金を免除する旨が定められたりする可能性がありますので(同法375条1項)、少額訴訟での解決を図ることにもメリットがあるといえます。

他方、支払督促については、労働者側が主張する残業代につき、例えば、誤った方法によって残業代を請求している等その請求の根拠に問題があることが多いことから、督促異議を申し立て、通常訴訟における審理を求める方が好ましいと考えます。