災害等の非常事由がある場合、使用者は労働者に時間外労働・休日労働をさせることができます。これを非常事由による時間外・休日労働といいます。
では、非常事由による時間外労働・休日労働をさせた場合、割増賃金を支払う必要はあるのでしょうか。今回は、この点について勉強しましょう。
非常事由による時間外・休日労働
36協定の外に労働基準法の定める1週間および1日の労働時間並びに休日の規制を超えて労働させることが認められる場合として、労働基準法は、非常災害等による場合を認めています(法33条)。深夜の時間帯であっても延長することができます(法61条4項)。
なお、妊産婦の請求があった場合は33条の場合であっても時間外・休日労働をさせることはできません(法66条2項)。
原則として所轄労働基準監督署長の許可が必要
災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合においては、使用者は、労働時間を延長し、又は休日に労働させることができますが、原則として所轄の労働基準監督署長の許可を得る必要があります。ただし、事態急迫のために行政官庁の許可を受ける暇がない場合においては、事後に遅滞なく届け出なければなりません。
許可または事後の承認の基準
許可または事後の承認の基準は、厳格に運用すべきものとされており、以下の基準があります(昭22.9.13 基発17号、昭26.10.11 基発696号)。
- 単なる業務の繁忙その他これに準ずる経営上の必要は認めないこと
- 急病、ボイラーの破裂その他人命または公益を保護するための必要は認めること
- 事業の運営を不可能ならしめるような突発的な機械の故障の修理は認めるが、通常予見される部分的な修理、定期的な手入れは認めないこと
- 電圧低下により保安等の必要がある場合は認めること
許可または届出の様式、届出書の書式
許可または届出は、様式第6号によります。
許可または届出の手続きは電子申請ができます。詳細は以下のサイトを参考にしてください。書式も掲載されています。
派遣労働者の場合、派遣先の事業場における必要性がある場合は、派遣先の使用者が許可または届出しなければなりません(昭和61.6.6基発333号)。
代休付与命令
上記のとおり、許可の基準は厳格に運用されますので、事後に届け出たところ、不適当と判断される場合があります。その場合、労働時間の延長又は休日労働に相当する休憩または休日を与えるべきことを、命ぜられることがあります(法33条2項)。
割増賃金の支払いの要否
以上のように、後に休息・代休を付与することから、当該時間外労働等に割増賃金を支払う必要はないと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、付与された休息・代休は公法上の効果によって生じる代償措置であるから、使用者は割増賃金の支払義務を負うと解されています。
また、事案によっては、不適当な時間外・休日労働を使用者の不適当な判断によって行った場合は、「使用者の責めに帰すべき事由」(労基法26条)に該当し、後に付与された休息・代休について休業手当支払義務を負うこともあり得ます。
(弁護士 大河内將貴)