2.4 持ち帰り残業 は労働時間か?

2.4 持ち帰り残業 は労働時間か?社長のための残業代対策119番今度は、労働する「場所」という観点から、労働時間と言えるかどうかが問題になるケースを検討してみましょう。労働者が自宅に仕事を持ち帰って作業するいわゆる持ち帰り残業が労働時間にあたるかという問題です。

持ち帰り残業 とは

オフィスで働くホワイトカラーのような場合、パソコンを使用しての事務作業などの仕事は、事業所だけでなく、自宅にパソコンがあれば自宅でも事業所と同様の仕事を行うことができます。ホワイトカラー労働では、ブルーカラーと言われる工場労働などとは異なり、一定の場所で一定の業務を一定の態様によって処理しなければならないとは限らないため、労働者が自宅に仕事を持ち帰って作業した場合に、労働時間として取り扱う必要があるかが問題となります。

労働時間 とは

2.1で検討したとおり、労働基準法32条の「労働時間」とは、判例では、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、客観的に判断されるとされています(最一小判平12.3.9 民集54-3-801三菱重工業長崎造船所事件)。

そこで、持ち帰り残業の場合でも、労働者が使用者の指揮命令下に置かれたものとして、労働時間と評価されるのかが問題となります。

具体的判断

持ち帰り残業 は、

  • 純粋に私生活上の領域である自宅であること
  • 特に使用者による時間の指定なく任意の時間に行われること
  • 使用者の定めた条件、規律が及ぶとはいえないこと
  • 遂行すべき業務につき具体的な指定があるとは言えないこと

などから、一般的には労働時間性を認めることはできないと思われます。

ただし、次の二つの場合は、例外的に持ち帰り残業について労働時間性が認められる場合があると考えられます。

  • 事業所内での労働時間では指定された期限までに到底終わらないような業務を指示されていている場合
  • 使用者の黙認や許容があった場合

参考になる裁判例として次の二つのものがあります。

  • 千里山生活協同組合事件(大阪地裁判決平成11年5月31日労働判例772号60頁)は、原告らの業務のうち、第一支所の物流業務、豊川倉庫における物流業務、各支所における共同購入運営部門の配達業務については、被告の指示による予定されていた業務量が就業時間内にこなすことができないほどのものであり、そのために右各業務を担当した原告らが時間外労働に従事せざるを得ない状況にあったのであるから、原告らが従事した時間外労働は少なくとも被告の黙示の業務命令によるものであるというべきであると判示して会社側に未払賃金の支払いを命じました。
  • 京都銀行事件(大阪高等裁判所平成13年6月28日労働判例811号5頁)では、始業時間前に行われていた銀行業務の準備行為や始業時間前に開催されていた男子行員については事実上出席が義務付けられている会議については、会社の黙示の指示による労働時間と評価でき、原則として時間外勤務に該当すると判示し、会社側に未払賃金の支払いを命じました。

行政解釈

厚生労働省の通達では、この点について、「使用者の具体的に指示した仕事が、客観的にみて正規の勤務時間内に処理できないと認められる場合の如く、超過勤務の黙示の指示によって法定労働時間を超えて勤務した場合には、時間外労働となる。」としています(昭和25年9月14日基収2983号)。

(弁護士 西尾雄一郎)