「はじめに」で述べたように、残業代は、残業時間(または休日労働時間ないし深夜労働時間)に1時間当たりの賃金額を乗じ、それに対して割増率を掛けることによって算定されます。何が残業時間にあたるのかの問題もありますが、まずは、「1時間当たりの賃金額」の計算方法を見てみることにしましょう。
1時間当たりの賃金額の計算方法
労働基準法は、時間外労働、休日労働又は深夜労働の割増賃金を計算するにあたって、以下の方法により1時間当たりの賃金額を計算するものと定めています(労働基準法37条1項)。
給料制 | 計算方法 |
時間制 | その金額 |
日給制 | その金額を一日の所定労働時間数で割った金額。但し、日によって所定労働時間数が異なる場合には、1週間における1日の平均所定労働時間数で割る。 |
週給制 | その金額を週の所定労働時間数で割った金額。但し、週によって所定労働時間数が異なる場合には、4週間における1週の平均所定労働時間数で割る。 |
月給制 | その金額を月の所定労働時間数で割った金額。但し、月によって所定労働時間数が異なる場合には、1年間における1月の平均所定労働時間数で割る。 |
週、月以外の期間によって定められた賃金 | その金額をその期間の所定労働時間数で割った金額 |
出来高払制等 | 賃金締切期間の賃金総額をその期間の総労働時間数で割った金額 |
※二つ以上の方法で給料を支給している場合には、それぞれ算定した金額の合計額
ほとんどの会社の就業規則によると、月によって所定労働時間数が異なる場合にあたるため、月給を、1年間における1か月あたりの平均所定労働時間で割ることになります。所定労働時間とは、労働契約や就業規則で労働義務があると定められた時間のことです。
具体的には、以下の計算方法により計算されることになります。
1月の平均所定労働時間
1時間あたりの賃金額
大まかな目安
このように、1時間あたりの賃金額を正確に計算するには、以外と面倒な計算をしなければなりません。しかし、残業代がだいたいいくらくらいなのか判断した上で、今後の対策を検討したいところです。そのために、おおまかな目安を知りたい場合には、1か月当たりの労働日数を21日として計算してみるとよいでしょう。
平均賃金とは違うの?
賃金の支払いの場面では、平均賃金、すなわち、原則として事由の発生した日以前3か月間に、その労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(暦日数)で除した金額が使われる場面があります。例えば、解雇予告手当(労働基準法第20条)、休業手当(同法第26条)、有給休暇中の賃金(同法第39条)、減給制裁の制限額(同法第91条)を計算する場合に用いられます。
この場合の計算は、3か月間の平均を計算しますが、残業代の算定にあたっては、1年間の平均労働時間をもとに計算していきます。これらの期間を混同しやすいので、注意しましょう。
「月給」とは?
このように、結局のところ月給を月の所定労働時間で割ることになるのですが、給与台帳に書かれている数字のうち、どの金額を月給として算定の基礎とすればいいのでしょうか。次回は、各種手当て等がこの月給に含まれるのかどうか、見ていくことにしましょう。
(弁護士 西尾雄一郎)