今回は、残業代の未払いを含めた個別労働紛争についての行政による紛争解決システムについて勉強しましょう。
個別紛争法
平成13年に「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」(以下,「個別紛争法」といいます)が制定されました。詳細は厚生労働省のサイトをご参照ください。
その結果,個別労働関係における民事紛争解決のための援助制度が新たに整備されることになりました。同法は次の三つの制度を設けています。
- 都道府県労働局における相談・情報提供
- 都道府県労働局長による助言・指導
- 紛争調整委員会によるあっせん
以下,それぞれについて説明します。
都道府県労働局における相談・情報提供
都道府県労働局における相談・情報提供は,労働問題に関するあらゆる分野が対象となり、例えば、単に法令や判例を知らない場合や,法令や判例に対する誤解がある場合でもかまいません。
上記のような場合を念頭に置いて、法は、そのような原因から個別労働関係紛争が生じることを未然に防止し,個別労働関係紛争の自主的な解決を促進するため,労働者,求職者又は事業主に対し,労働関係に関する事項並びに労働者の募集及び採用に関する事項についての情報の提供,相談その他の援助を行うこととしています(個別紛争法3条)。
都道府県労働局長による助言・指導
都道府県労働局長による助言・指導は,個別労働関係紛争の当事者の双方又は一方から解決につき援助を求められた場合には,当該個別労働関係紛争の当事者に対して,必要な助言又は指導をすることができることとされています(個別紛争法4条1項)。
都道府県労働局長の助言・指導には,強制力はありませんが,都道府県労働局長が個別労働関係民事紛争の問題点につき,解決の方向を示唆するなどして,紛争当事者による自主的解決を促進する為に制定されたものです。なお事業主は,労働者が上記の援助を求めたことを理由として,当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないものとされています(個別紛争法4条3項)。
紛争調整委員会によるあっせん
概要
紛争調整委員会によるあっせんは,当該個別労働関係紛争の解決のために必要があると認めるときに,紛争調整委員会にあっせんを行わせるというものです(個別紛争法5条)。詳細はこちらのサイトをご覧ください。
紛争調整委員会は,各都道府県労働局に置かれています(同法6条1項)。
目的・手続
紛争調整委員会によるあっせんにおいては,当事者間に弁護士,大学教授等の学識経験者である第三者が入ることにより,当事者双方の主張を聞き取り,争点を確認し,紛争当事者間の調整を行い,話合いによる紛争の解決を図ることが目的とされています。
あっせん手続は,訴訟手続きと比べて手続が迅速かつ簡便であることに加えて,その手続きは無料であり,かつ,非公開で行われるので紛争当事者のプライバシーの保護に資するという特徴があります。
当事者の双方又は一方からあっせんの申請が必要です(同法5条)。
また,紛争調整委員会のあっせんは,原則として1回で終了する手統です。
紛争当事者があっせん案に合意したときには,受諾されたあっせん案は民法上の和解契約として取り扱われます。
あっせんの打ち切り
あっせん委員は,あっせんに係る紛争について,あっせんによっては紛争の解決の見込みがないと認めるときは,あっせんを打ち切ることができます(個別紛争法15条)。
あっせんが打ち切られた場合において,当該あっせんの申請をした者がその旨の通知を受けた日から30日以内にあっせんの目的となった請求について訴えを提起したときは,時効の中断に関しては,あっせんの申請の時に訴えの提起があったものとみなされます(個別紛争法16条)。