前回は、会社の外で働くことが多い労働者で労働時間の管理や算定が困難な場合に、一定の労働時間だけ労働したと「みなす」制度である事業場外労働のみなし制について紹介しました。
今回は、労働時間のみなし制のもう1つの類型である裁量労働のみなし制 についてご紹介します。
裁量労働のみなし制 とは
例えば、工場でなにかを箱詰めするというような単純作業であれば、工場にいる時間が長いほどできあがる製品の数は多くなります。また、飲食店のアルバイトも4時間働いた人よりも8時間働いた人のほうが2倍大変だったと言ってよいでしょう。これらの労働に対する報酬は、働いた時間数によって決めるのが合理的です。
しかし、世の中には様々な仕事があります。労働者が仕事のやり方について大きな裁量を持ち、仕事の量よりも質や成果が重要で、給料や待遇も仕事量よりも質で決まる仕事もあります。例えば、大学の研究者の場合は、どれだけすぐれた研究をしたかが重要であり、研究室に何時間いたかというのはあまり重要ではありません。
このような仕事をしている労働者については、通常の労働時間管理をすることは合理的ではありませんし、そもそもできないといえるでしょう。
そこで、一定の要件を満たす裁量的な仕事をする労働者については、実際の労働時間数にかかわりなく、一定の労働時間だけ労働したものと「みなす」ことができるようになっています。
それが、裁量労働のみなし制 であり、次の2種類があります。
- 専門業務型裁量労働制(労基法38条の3)
- 企画業務型裁量労働制(労基法38条の4)
専門業務型裁量労働制
対象となる職種は、研究者、プログラマー、新聞・雑誌・テレビなどの記者、デザイナー、テレビ・映画のディレクターやプロデューサー、コピーライター、公認会計士、弁護士、建築士など19の職種です。詳細は厚生労働省のサイトを参照してください。
この制度を導入するためには、事業場の過半数労働組合または過半数代表者との労使協定を締結して、所轄の労働基準監督署長に届け出ることが必要です。
専門業務型裁量労働制が適用されることによる法的な効果は、実際の労働時間に関係なく、労使協定で定めた時間を労働したものとみなされるということです。
つまり、例えば本当は10時間働いていたとしても、また、逆に途中でさぼっていたとしても7時間や8時間労働したものとみなされることになります。
注意点としては、休憩や深夜労働、休日労働に関する規制は排除されないため、割増賃金を支払うことが必要な場合も発生します。また、例えばみなし労働時間を9時間と定めた場合、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えるため、残業代を支払わなければなりません。
企画業務型裁量労働制
「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務」についても、裁量労働のみなし制の導入が可能です。例えば、営業企画部や調査部などでしょうか。
専門業務型裁量労働制が適用される範囲は、職種や資格によって明確に決められている一方、企画業務型については、「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務」という抽象的な定義になっています。
また、企画業務型を実施する場合は、専門業務型に比べて要件が厳しく定められています。
- 労使の代表で構成される労使委員会を設置
- 実施する具体的な中身を労使委員会の5分の4以上の賛成を得た決議で決定
- 対象となる労働者の同意
が必要です。
企画業務型裁量労働制を導入した場合の効果は、専門業務型裁量労働制と同じで、休憩や深夜労働、休日労働に関する規制は排除されないのも同様です。
まとめ
会社の業務形態や各部署の業務内容を考慮し、従業員の働き方に合わせた労働時間の制度にすることにより、会社にとっては残業代を削減でき、また、従業員にとっても働きやすい職場になる効果が期待できますので、導入について検討する価値はあると思います。この記事が良いヒントになれば幸いです。
(弁護士 田島寛之)