前回は、残業代について、実労働に時間的に接している待機時間を検討しましたが、今回は、実労働とはすこし離れた「労働時間」について検討してみます。
接待ゴルフや懇親会 のように、社会通念上は仕事と言えないように思える時間、いわゆる「本務外活動」についても、労働時間であると主張される場合があるのです。
接待ゴルフや懇親会 -本務外活動
実際の企業活動では、本務活動とは別に、取引先や部署内の懇親会やその後の2次会、休日に接待ゴルフなどが行われることがあります。このような時間は、「労働時間」にあたるのでしょうか。
実社会では、ゴルフを通じた社交が企業文化として認められているといえ、企業間や団体の交流のツールとして利用されています。このため、使用者が労働者に対してゴルフプレー料、交通費などを負担して参加を促していることがしばしば見受けられます。
また、取引先や部署内の懇親会も、将来に向けての関係を円滑に進め、現在の関係をより強固にするため、酒食を伴い打ち解けて話し合うこともまま見受けられます。
労働時間とは
問題の所在
労働時間とは、前回も説明したとおり、三菱重工業長崎造船所事件(最一小判平12.3.9 民集54-3-801)は、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、労働基準法32条の「労働時間」に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたかどうかを、客観的に判断し、「当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当する」と判示しています。
労働者が労働契約上の主要な内容をなす業務(本務活動)を遂行している時間が労働時間であることには争いはありません。
接待ゴルフや懇親会 は、社会通念上、本務活動とはかかわりがないか、またはその係わりが極めて低い場合であることから問題となります。
裁判例
裁判例は、本務外活動と認められる場合を、かなり狭く判断しています(前橋地判昭和50・6・24労働判例230号26頁高崎労基署事件)。
高崎労基署事件判決は、ゴルフ接待について、ゴルフコンペへの「出席が業務の遂行と認められる場合もあることを否定できないが、しかしそのためには、右出席が、単に事業主の通常の命令によってなされ、あるいは出席費用が、事業主より、出張費用として支払われる等の事情があるのみでは足りず、右出席が、事業運営上緊要なものと認められ、かつ事業主の積極的特命によってなされたと認められるものでなければならない」としています。
したがって、接待ゴルフは原則、労働時間には当たらないでしょう。
しかしながら、ゴルフの目的が会社にとって重要な人物に対する接待であり、ゴルフの最中に商談が予定されていて、特定の労働者が必ず参加しなければ意味をなさないような事情が認められる場合には、接待ゴルフの時間も労働時間と認定される可能性もあると思われます。
懇親会など
上掲裁判例の基準からすると、懇親会については、通常このような懇親会に出席しないことで本務活動に直接支障を生じるとは考えにくいですから、使用者から参加が奨励されているとしても、参加が強制されているとまではいえない場合には、労働時間として扱う必要性はないと思われます。
行政解釈も同様に解されているといえるでしょう(昭和26年1月20日基収2875号平成11年3月31日基発168号)。
ただし、懇親会の設営や準備などを使用者から指示されている担当者については、労働時間として扱う必要があると思われます。
(弁護士 西尾雄一郎)
2014年7月11日(2015年8月28日改定)