会社によっては、業務上の必要もないのに行ういわゆる「ダラダラ残業」を防止するなどの目的で、残業をする場合には、許可を必要とする制度としている場合があります。今回はこの残業代の許可制について説明します。
無許可残業が労働時間に当たるか
判例によると、労働基準法32条の「労働時間」に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたかどうかを、客観的に判断して決めます(最一小判平12.3.9 民集54-3-801三菱重工業長崎造船所事件)。
時間外労働を許可制としている場合に、業務命令に違反し、許可を得ないで行った時間外労働は、使用者の指揮命令下にないことを明示したことになり、「労働時間」に該当しないといえます。
裁判例
神代学園ミューズ事件では、労働者が使用者の明示の残業禁止命令に反して業務を行ったとしても,それを労働時間と解することは困難であり、学院長は,繰り返し36協定が締結されるまで残業を禁止する旨の業務命令を発し、残務がある場合には役職者に引き継ぐようこの命令を徹底しているという事例において、この時期以降の残業を,使用者の指揮命令下にある労働時間と評価することはできないと判示して、残業禁止命令が出された後の従業員ら(原告ら)の時問外労働に対する割増賃金の請求を棄却しました(東京高裁平成17年3月30日労働判例905号72頁 )。
このような裁判例をみても、使用者としては、その従業員に対して残業をしないよう具体的な命令を出すこと、しかもその命令を出した時期が明確になるよう、その命令については従業員に対して文書で明示することが有効であると考えられます。
もっとも、使用者が就業規則等で明示的に残業を禁止しているにもかかわらず、従業員が勝手に行ったような時間外労働であっても、会社がこの時間外労働を黙示に承認していたものと認定されて、残業代等を支払わなくてはならないこととなる危険も否定できません。
参考になる裁判例として次の二つのものがあります。
- 大阪地裁判決平成11年5月31日労働判例772号60頁・千里山生活協同組合事件)は、原告らの業務のうち、第一支所の物流業務、豊川倉庫における物流業務、各支所における共同購入運営部門の配達業務については、被告の指示による予定されていた業務量が就業時間内にこなすことができないほどのものであり、そのために右各業務を担当した原告らが時間外労働に従事せざるを得ない状況にあったのであるから、原告らが従事した時間外労働は少なくとも被告の黙示の業務命令によるものであるというべきであると判示して会社側に未払賃金の支払いを命じました。
- 大阪高等裁判所平成13年6月28日労働判例811号5頁京都銀行事件では、始業時間前に行われていた銀行業務の準備行為や始業時間前に開催されていた男子行員については事実上出席が義務付けられている会議については、会社の黙示の指示による労働時間と評価でき、原則として時間外勤務に該当すると判示し、会社側に未払賃金の支払いを命じました。
就業規則例
就業規則において、時間外労働を許可制とする場合の条項としては、次のようなものが考えられます。
「時間外、休日及び深夜労働は、所属長の指示または申請し承認された場合のみ行うことができるものとする。」