416時間残業のツケ:残業代に加えて慰謝料まで・・・

416時間残業のツケ:残業代に加えて慰謝料まで・・・社長のための残業代対策119番

残業代に関する近時の報道

24時間勤務を1カ月…残業416時間の男性が訴訟 会社側は「残業強いたことはない」

東京都内のある会社から業務委託契約を受けてシステム管理の仕事をしていた男性が、1か月間連続して24時間勤務したとして、約580万円の支払いを求めた訴訟において、東京地裁は、2年分の残業代に加え、30万円の慰謝料も含めて、約480万円の支払いを会社に対して命じました。

記事によると、この男性は1か月間、24時間連続勤務が続き、残業時間は416時間となっていました。判決は「会社は過重な労働をさせないよう職場環境を整える義務を怠った」としているとのことで、この点が慰謝料を認めた理由になっているものと考えられます。

なお、現時点において、会社による控訴等の事実に関する情報はありません。

業務委託と残業代

今回の事案においては、そもそもこの男性に残業代が発生するかどうかが問題となります。すなわち、残業代が発生するのは労働基準法上の「労働者」であることが必要ですが、この男性の会社との関係は雇用契約ではなく業務委託契約という形でした。このような場合でも「労働者」に該当し、残業代が発生するでしょうか。実際、本件においても、会社側は、男性とは業務委託契約であったことを反論の一つとしていたようです。

労働基準法における「労働者」については、契約の形式によって決められるのではなく、関係の実態において事業に「使用され」かつ賃金を支払われている関係かどうかで判断するものとされています。すなわち、相手方の指導監督を受けているかという点を中心に、報酬の労務対償性等を含めて総合的に判断することとなり、具体的には、相手方の指示に対する諾否の可否、指揮監督の有無、拘束性の有無等を考慮することになります。

本件における詳しい事情は明らかになっていませんが、現実的に24時間労働を強いられ、改善を求めたが受け入れられなかったとのようです。そのような点が、男性を「労働者」として、残業代を認める根拠になったものと考えられます。

慰謝料の支払い:会社の安全配慮義務

本件の大きな特徴は、残業代に加えて慰謝料の支払いが認められている点です。

この点については、過去の裁判例において、職場における使用者の労働者に対する契約責任としての安全配慮義務違反(民法415条)、または不法行為責任(民法709条・715条)として認められてきました。例えば、常軌を逸した長時間労働により労働者がうつ病になり、自殺してしまったという事件において、最高裁は、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務」を負っているとしました(電通事件、最判平成12年3月24日民集54巻3号1155頁)。そして、その後制定された労働契約法5条により、使用者の安全配慮義務が明文上明らかになりました。

本件のような過労に関する安全配慮義務の判断においては、労働時間、休憩時間、休日等の客観的な点と、労働者の年齢や健康状態等に応じた作業時間や内容、作業場所に関する配慮などの主観的な点を考慮することになります。そして、客観的な観点からして明らかに安全配慮義務違反と認められる場合は、主観的な点を考慮することなく、使用者は直ちに責任を負うことになります。

本件において男性の健康状態等は記事からは明らかではありません。しかし、24時間労働が1か月続くというのは明らかに過剰であり、裁判所はその客観的事実を重視したものと考えられます。

終わりに

最近、「社員をうつする方法」という内容の社労士のブログが話題となりました(「社員をうつにする方法」ブログの社労士に退会勧告 愛知県社労士会【ブラック士業】)。社員を意図的にうつ病にさせれば、会社に損害賠償責任が発生することは言うまでもありません。本件において、男性がうつ病等の健康被害を発症したかどうかについては明らかではありません。しかし、本件での慰謝料の金額は30万円でしたが、男性に実際に健康被害等が発生していれば、その金額はさらに大きくなった可能性があります。

過剰な労働により社員に健康被害を生じさせたとなれば、法的な責任を負うのみならず、会社にとって取り返しのつかないイメージダウンにつながる可能性があります。社員の安全環境は軽視せず、十分に注意したほうがよいでしょう。