残業代に関する近時の報道
「主任の残業代未払い」和解…管理職に当たらず。8月29日の読売新聞の記事です。
大阪府東大阪市職員の30歳代の男性主任が、「権限も与えず管理職として扱い、残業代を支給しなかったのは労働基準法違反」として、時間外勤務手当など約520万円の支払いを市に求めた訴訟で、市が解決金180万円を支払う条件で大阪高裁で和解したことが分かりました。なお、本件の地裁判決では男性側が勝利し、市に約288万円の支払い命じていたようです。
また、市は和解を受けて一般行政職員に対する扱いを見直す予定のようです。
公務員と残業代
地方公務員法は、職員を一般職と特別職とに分け、原則として一般職のみを対象としています(3条、4条)。そして、同法は58条で労働基準法その他の労働関連法規の一部の規定を適用除外としていますが、残業代及びその例外に関する労基法37条や41条については適用除外とはしていません。そのため、一般職員に対する残業代の支給については一般企業と同様に考えることになります。
残業代を払わなくてよい、「監督若しくは管理の地位にある者」
労働基準法41条2号において、「監督若しくは管理の地位にある者」(以下、「管理監督者」といいます。)は残業代に関する規定の適用除外とされています。この問題についての詳しい説明はこちらをご覧ください(いわゆる「名ばかり管理職」についてはこちらも参照)。
裁判例における管理監督者該当性の判断要素としては、
- 職務内容・権限:人事上の決定権などですが、必ずしもそれに限定されず、経営全般に関する重要な決定への参画が考慮されることも多いです。
- 勤務態様:出退勤管理など、労働時間に関する拘束の程度が考慮されます。
- 賃金処遇:一般従業員と比較して、管理監督者にふさわしい待遇がなされているかが考慮されます。
といったものがあります。
本件は、結果として和解で終了していますが、実質的には主任の管理監督者該当性を否定したものといえます。報道によりますと、本件の原告となった男性は、給与のほかに、月2万円の管理職手当などの支給は受けており、一定の優遇はされていたようです(それが適切な程度であったかどうかという問題は当然あります。)。しかし男性は、「行政運営の重要事項に関与せず、出退勤は所属長が管理している」とのことで、前記①および②の点から管理監督者には該当しないものとされました。
終わりに
管理監督者に該当するかどうかという問題は、通達及び裁判例において一定の基準は示されていますが、あくまでも残業代支払い義務の例外であり、具体的な事情に応じて厳格に判断されます。現に今回冒頭で挙げた例では管理職手当という形で給与上の優遇措置がとられていたにも関わらず、労働基準法上の管理職とはいえないものとされました。
市は、約1500人にいる一般行政職員の約7割にあたる主任以上を管理職としてきたというのですから、今後約1050人に残業代を支払うことになります。このように、残業代は訴訟を提起した個人の問題に限定されず、会社の労務管理体制そのものの変更を余儀なくされることがあり、その影響は予想外に大きくなることもあります。
このように、専門的な判断を要する場合も多いので、自社の取扱いはどうかと思ったときは弁護士等の専門家に相談されることをお勧めします。