問い 私は甲に1000万円の貸付金を有しています。甲の倉庫にある在庫商品から回収することはできますか?
答え まず、甲の同意を得て、代物弁済契約により引き上げることが考えられます。あるいは、当該在庫商品に譲渡担保権を設定することも考えられますが、これについては別項で説明します。さらに、当該在庫商品が自社の納入による物であれば、納入に関する売買契約を合意解除することにより引き上げることも考えられますが、以下では、代物弁済について説明します。
代物弁済とは
代物弁済とは、債務者が債権者の承諾により、本来弁済すべき物の代わりに、別の物を渡して債権を消滅させることをいいます。すなわち、本問のように、在庫商品を引き渡すことにより、現金を弁済したのと同様の効果を発生させることができます。
要件および具体的手続き
代物弁済の要件として、
① 債権の存在
② 本来の給付と異なる給付がなされること
③ それが「本来の弁済に代えて」なされたこと
④ 債権者の承諾(当事者の合意)
の4つが必要とされています。
具体的に行うにあたっては、対象となる商品を特定し、金銭的評価を行った上で、債権いくらに代えるのか確定させたうえで、合意する(承諾させる)ことになります。
留意点
代物弁済契約により債務者の在庫商品を引き上げれば、債務者のその後の営業行為に支障をきたし、その後、債務者が倒産してしまうことは大いに考えられます。その場合、当該代物弁済が否認権や債権者取消権の対象とならないかという問題があります。この点については、自社が納入した商品の代金債権の代物弁済として当該商品を引き上げた事例において、目的物の価格が高騰していない限り否認の対象とはならないとする判例があります。
他社の納入にかかる商品の場合においても、債権額に比べて目的物の価格が相当程度高額と言える場合、債権者平等の原則に違反しているとして、否認権あるいは債権者取消権の対象となりかねません。そのため、目的物を正当に評価した上で、自社の債権額に見合う範囲でのみ弁済を受けることとすることが重要です。目的物が債務者の在庫商品であれば、市場価格を考え、自社の債権額の範囲で数量を調整することとなります。