仮差押え とは
売掛金等の金銭債権を有する場合、債務名義を取得して強制執行をすることにより債権を回収することができます。しかし、訴訟を起こして勝訴判決(債務名義)を取得するには時間がかかります。債務名義を取得している間に、強制執行の対象とすべき財産を債務者が処分してしまうことも考えられますが、そのようなことになったら債権の回収ができなくなってしまいます。仮差押えは、このような事態を防ぐために、債務者の財産の保全を図る手続です。
仮差押え の特徴
仮差押え は、債務名義を取得している間に債務者が財産を処分してしまうことを防ぐ手続です。したがって、迅速に、かつ債務者の秘密裏に進めます。申立てをしてから仮差押決定が出るまでの時間は、最短で数日です。
しかも、訴訟手続と異なり、債務者側の言い分を聞かずに決定をします。そのような一方的な手続であり、結果として債務者に致命的な打撃を与えてしまうこともありますから、法律は、債務者が受けるかもしれない損害を担保するため、原則として債権者に担保を積ませることにしています。
担保の金額は、債権の額、目的物の種類とその価格、証拠の確実性などを考慮して、裁判所が決めることとなっています。
なお、商品や売掛金に対する仮差押えは、債務者にとって特に重大な影響を及ぼす可能性があるので、これらを対象とする場合には、少なくとも債務者の本店所在地の土地建物が債務者所有でないことが必要です。
仮差押え の要件
仮差押え は、①債権者に保全されるべき債権(被保全債権)があることと、②債務名義を取得する余裕がない緊急性(保全の必要性)があることが求められます。債権者は、証拠を示してこれらを主張立証することが求められます。
被保全債権の証拠としては、契約書、注文書・注文請書、納品書・受領書、伝票、請求書などがあります。
保全の必要性の証拠としては、取引先が最近処分した不動産の登記簿謄本、不渡り手形、信用調査機関の報告書などがあります。
仮差押え の効果
仮差押えがなされると、債務者は目的物につき、売買、抵当権の設定など一切の処分を禁止されます。具体的な効果は、対象財産によって異なります。
不動産や船舶、登録された自動車を対象とした場合は、仮差押えの登記がなされます。自動車の場合は、執行官に自動車を取り上げて保管することを命じる方法もあります。
動産を対象した場合は、執行官が目的物を占有します。
預金や売掛金などの債権を対象とした場合は、裁判所がその債権の債務者(第三債務者)に対して、債務者への弁済を禁止する命令を発します。
仮差押え後の手続
仮差押えが完了したら、訴訟を提起します。
訴訟において勝訴判決を取得したら、仮差押えによって債務者の下にとどめられていた目的物に強制執行を行うことになります。
(弁護士 鈴木俊行)