1.8.2 貸倒損失

1.8.2 貸倒損失中小企業債権回収119番

問い 貸倒れとして損金の額に算入できるのは、どのような場合ですか?
答え 法人税法第22条3項に規定があり、判例と通達があり、解釈が分かれています。

貸倒損失 の必要性

売掛金その他の金銭債権について、債務者(取引先)に支払能力が無くなり、支払いがなされないまま回収できない場合、その債権は、いわゆる不良債権となってしまいます。不良債権をいつまでも資産として残して、請求だけすることは、経済的に合理性がありません。

税務上どのような場合に損金とできるか(法人税法)

不良債権については、帳簿上 貸倒損失 として処理することになりますが、貸倒損失については、税務上損金となる場合とならない場合があります。

法人税法上では同法第22条3項に
「3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一  当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二  前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三  当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」
と定められていますので、当該債権の貸倒損失が、同項三号の「当該事業年度の損失」に該当するか否かということになります。

なお、同条4項では、「第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。」と定められています。

法人税基本通達及び判例

法人税基本通達では、9-6-1から9-6-3まで金銭債権の貸倒について定められています。この定めは、上記法人税法第22条3項三号について、債権が法律上消滅した場合と法律上債権が存続しているが、その回収が不可能であるため資産価値が事実上消滅する場合があることに対応してその基準を明らかにしたものです。

また、住宅金融専門会社の設立母体となった銀行の貸付債権が問題となった事案の訴訟において、税務署長は、事実上の回収不能によって税務上貸倒損失が認められるためには、「強制執行、破産手続、会社更生、整理といった回収不能を推定し得る法律的措置が採られた場合及びこれに準じるような場合、すなわち債務者の死亡や所在不明又は事業閉鎖というような回収不能の事実が不可逆的で、一義的に明白な場合に限られると解すべきである。」と主張しています。

 しかし、最高裁判所は同事案の平成16年12月24日第二小法廷判決において、客観的な全額回収不能の判断にあたり,「債務者の資産状況,支払能力等の債務者側の事情のみならず,債権回収に必要な労力,債権額と取立費用との比較衡量,債権回収を強行することによって生ずる他の債権者とのあつれきなどによる経営的損失等といった債権者側の事情,経済的環境等も踏まえ,社会通念に従って総合的に判断されるべきものである。」とし、債権者側の事情や経済的環境等も踏まえることを判示しました。

不測の事態を避けるために

 上記のとおり、事実上の貸倒損失は、総合的に判断されるべきということなので、事情によっては貸倒損失が認められない場合もあるわけです(なお、売掛債権については、法人税基本通達9-6-3の規定があります)。これが多額の債権であれば、法人税額が大きく左右されてしまうかもしれません。不測の事態を避けるためには、多額の債権の貸倒れについては、上記訴訟において税務署長の主張を参考に、債権者が強制執行をしても回収できなかった、というところまで回収の努力をしておけば、貸倒損失として、たいていの場合は認められるということができます。

(弁護士 大河内 將貴)