制度趣旨および概要
担保を持たない一般債権者の債権を実現する原資となるべき債務者の財産の総体を「責任財産」といいます。これは債務者の財産であるため、当然ながら債務者本人が自由にできるものです。
しかし、債権者としては、債務者が債権者を害するような行為があれば、責任財産を保全するため、一定の行為が認められています。それが、本項で説明する債権者代位権およびQ29で解説する債権者取消権です。
債権者代位権は、債務者が自らの権利を行使しないときに、債権者が債務者に代わってその権利を行使するもので、債務者が責任財産の減少を放任する場合に機能します。これを使えば、債務者が第三者(これを「第三債務者」といいます。)に対して有している貸金債権等を債務者に代わって取り立てて、自己の債務の弁済に充てることができます。代理とは異なり、債権者自身のため、債務者になりかわって債務者の債権を行使するものです。
また、債権者取消権と異なり、裁判所の手を経ないで直接に行使することができます(ただし、期限未到来のものを除きます。)。もっとも、相手が拒めば訴訟によることとなりますので、事前に弁護士にご相談されることをお勧めします。
代位行使可能なのは原則的に金銭債権ですが、場合に応じて、取消権、解除権、相殺権、錯誤無効の主張、時効を中断させる行為、未登記不動産の登記請求等も代位行使が可能とされています。
要件および行使に関する手続き
債権者代位権行使の要件を整理すると、
① 保全の必要性
② 債務者自身の権利不行使
③ 被保全債権が履行期にあること
とされています。
ただし、③については、裁判上の請求や、時効中断や登記請求等については不要です。
また、債務者に一身的に専属する権利(慰謝料請求権や離婚にあたっての財産分与請求権など)は代位行使が禁じられています。
その上で、債権保全に必要な範囲で、債権者自身の名義で、債務者の権利を代位行使することができます。それが金銭債権の場合、第三債務者から金銭を受領したとき、本来的には債務者の財産なので、債務者に返還しなければならないはずですが、これを自己の債権と相殺することができ、結果的に事実上優先して弁済が受けられることになります。ただし、債務者が破産等の法的倒産手続きの段階に至っていれば、個々の債権者に代位権の個別行使は認められないことになります。この点には注意が必要です。
なお、担保を持たない一般債権者の立場で事実上の優先弁済効が認められることについては批判もあり、現在予定されている民法改正において廃止すべき(具体的には、受領した金銭の返還義務と自己の債権との相殺を禁止する旨の規定を創設する。)との意見もあり、中間試案の段階まではその方向で考えられていました。
しかし、最終的に国会に提出された法案では、相殺禁止規定はなくなり、事実上の優先弁済効は今後も認められることとなっています。
債権執行との関係
債務者の権利を行使する方法として、債務名義を得ての強制執行の方法の1つである債権執行によることも考えられます。そこで、ここで債権者代位権と債権執行との違いについても触れておきます。
まず、債権執行には当然ながら判決や公正証書等の債務名義が必要となりますが、債権者代位権には不要です。ただし、債務名義があれば債務者が無資力でなくても当該債権を差し押さえることができますが、債権者代位権の行使については原則として無資力要件が必要とされています。
債権執行において、他の債権者が同時に差し押さえた場合などは配当によることとなりますが、債権者代位権を使えば、単独で第三債務者から回収することができます。また、債権執行ののち転付命令を得た場合、配当によらずに単独で回収できますが、第三債務者が無資力であれば結局満足を得ることはできません。
しかし、債権者代位権の場合は第三債務者が無資力であれば当該債権を行使しないという選択をするのみなので、その範囲でのリスクを負わずに済みます。