1.7.2 時効の中断

1.7.2 時効の中断中小企業債権回収119番

問 消滅時効の期間が迫っています。あきらめるしかありませんか。
答え 消滅時効の期間が迫っていても、時効の中断 によって、債権の存続を図ることができます。

時効の中断

時効の中断 とは、時効期間の経過前に、時効の起訴である事実状態と相いれない事実(これを「中断事由」と言います。)が生じることにより、それまで進行してきた時効期間が法的に無意味になることです。

ここで、一般的に「中断」というと、その原因となっている事実がなくなれば、また途中から進行すると思われるかもしれません。しかし、ここでいう法律用語としての「時効の中断」は、中断事由が生じることにより、時効期間がまたゼロからスタートすることになるものです。そして、一時的に時効期間満了がストップするのは時効の「停止」といいます。

なお、現在予定されている民法改正では、上記のような時効の「中断」、「停止」という名称を改め、「更新」、「完成猶予」という用語が用いられています。

ただし、Q12記載の通り、民法改正が延期となっているため、本項では従来通り「中断」、「停止」という用語を使わせていただきます。

中断事由

時効の中断事由として規定されているのは、

  1. 請求
  2. 差押え・仮差押え・仮処分
  3. 承認
    の3つです。 ただし、ここでいう請求とは、裁判上の請求(支払督促、破産手続参加等を含む。)でなければならないことには注意する必要があります。すなわち、裁判上の請求でない通常の請求(請求書を送付することなど)は、「催告」といい、時効期間を6か月間延長する効果はありますが、中断事由ではありません。しかも、催告により時効期間が6か月間延長されるのは1回のみであり、定期的に請求書を送付しているだけでは時効は中断しません。上記のうち、1および2については、別項で詳しく説明されているのでそちらを参照していただきたいと思いますが、いずれも面倒な手続きが必要で、費用もかかります。

    そこで、3の承認による時効中断を活用することを第一に考えるとよいでしょう。ここでいう「承認」には、債務の一部弁済や、猶予の申出など債務者の行為が広く含まれるので、中断事由として最も簡易なものといえます。ただし、後に争いになった場合、時効中断の事実は債権者側が証明しなければならないとされていますので、承認の事実は何らかの書面(債務承認書や一部弁済の領収書など)に残しておくことが重要です。債務者が非協力的で、そのような書面が作成できない場合(そのような場合、債務者も時効完成を待っている可能性があります。)は、1や2の方法によらざるを得ないことになります。その場合、裁判上の手続きの進行中は時効が停止しますが、最終的に取り下げてしまうと中断効が生じないことには注意しましょう(そのため、何らかの理由で取り下げるとしても、最低限債務者に承認させ、その事実が記録上明らかになるようにしておくべきです。)。あるいは、債務者本人が行方不明の場合などは、承認はもちろん、請求することも難しいことになります。そのような場合、保証人からの回収や差し押さえられる財産が残っていれば良いですが、それらが不可能なときは、公示送達による訴訟の提起によることになります。

保証人等がいる場合

ここで、債務者に保証人等がいる場合において、注意すべき点について説明します。

まず、保証人が弁済した場合、保証債務の時効は中断します(承認したことになる)が、主債務の時効は進行します。そして、保証人は主債務の時効を援用できるものとされていますので、保証人が弁済していても、主債務者との関係で時効期間が満了すれば、保証人との関係でも債権が消滅してしまうことが考えられます。

また、物上保証人(債権に抵当権が設定されている場合の抵当不動産の所有者など)は、そもそも債務を負っていませんので、物上保証人が被担保債権の存在を承認しても、中断事由には当たりません。

(弁護士 南波 耕治)