5.2 在庫担保

5.2 在庫担保中小企業債権回収119番

問い 甲には倉庫にある在庫商品しかめぼしい財産はありません。これを担保にとることはできるでしょうか?その場合の注意点について教えてください。
答え 甲の倉庫にある在庫商品を一つの集合物として譲渡担保権を設定することが考えられます。その場合、設定契約において対象商品を厳格に特定し、その上でプレートを設置するなどして担保目的物であることを明らかにし、定期的な報告を求めるなど、しっかり管理していくことが必要です。また、甲が法人であれば、債権譲渡登記を利用することも考えられます。

譲渡担保

譲渡担保とは、法律上の明文規定はありませんが、債務者(または第三者)に属する所有権その他の財産権を債権者に譲渡し、債務が弁済されたらその権利は設定者に復帰するが、債務不履行となったら確定的に債権者の権利となるとする形式の担保をいいます。特徴としては、質権と異なり、債務者のもとに目的動産を残したままで担保とすることにあります。そして、実務上、この譲渡担保権を「この倉庫内にある在庫商品」などの集合物に設定することも認められています。これにより、内容が日々入れ替わっていく在庫商品などを包括的に担保化することが可能になります。本問ではこれを利用して在庫商品を担保とするという方法が利用できます。

設定手続きおよび留意点

在庫商品に譲渡担保を設定するにあたっては、相手方の承認を要するのは当然ながら、設定契約において以下のような点に留意する必要があります。
① 担保に乗る商品の所有権を担保目的で自社に移転させることを明記する。
これが譲渡担保権の設定を端的に示すものです。
② 占有改定により引き渡すことを明記する。
民法上、動産に関する権利の移転には「引渡し」が必要とされているところ、在庫担保の場合は目的物を現実に引き渡せばその後の営業活動ができなくなります。占有改定(「占有物を今後は相手方のために占有する」と意思表示することで、場所的移動を伴わずに引き渡したことになること)による引き渡すことが必要です。そして、倉庫の入り口等に譲渡担保の目的物である旨のプレートやステッカー等を貼って、対外的に公示しておきます。
③ 販売商品の補完
在庫商品を通常の取引の範囲で販売することは認めるとしても、その結果として減少した分が補完されなければ、担保価値が減少してしまいます。そのため、販売した分を補完する義務を債務者に負わせることが必要です。
④ 保管状況の定期的な報告
上記③とも関連しますが、担保にとった以上、その価値が下がってしまっては意味がありません。そこで、③で量的な補完を義務付けた上で、質も維持するため、保管状況を定期的に報告する義務も確実にしておく必要があります。
⑤ 在庫商品を明確に特定
担保目的物が日々の取引で変化していくことから、どの範囲での商品を担保としているのかを明確にしておかなければなりません。判例上、「種類」、「所在場所」及び「量的範囲」による特定が要求されています。例えば、「家財一式」といった特定は、種類が多種多様であることなどから、特定不十分とされています。日々増減する商品を担保として設定する以上、第三者が識別可能な程度に特定される必要があります。
なお、この契約にあたっては、取引先が法人である場合、特例法上の動産譲渡登記を利用することも可能です。これを利用すれば、占有改定という対外的には分からない方法による引渡しでも、登記により公示することが可能になります。しかし、在庫担保のような集合物を担保とする場合、種類等についてかなり詳細に特定することが要求されており、取引先が単一の商品しか扱っていないなどの事情がない限り、利用することは困難と言えます。登記には費用も手間もかかることを考えれば、契約書1枚で済ませたほうが良い場合が多いと思われます。

実行手続き

債務者に債務不履行があれば債権者としては譲渡担保を実行することとなりますが、その方法としては以下のものがあります。
① 帰属清算方式
まず債権者が目的物の価値を評価し、それと債権額との差額を債務者に清算金として交付し、目的物の所有権を確定的に債権者に帰属させ、それを債権者が処分して弁済に充てる方法。
② 処分清算方式
債権者が直接第三者に目的物を処分し、その代金から債権の弁済を受けた上で、残額があれば債務者に清算金として債務者に交付する方法。
上記いずれの方法によるかは設定契約段階で決めることになりますが、処分前に清算金を用意しなければならない帰属清算方式は債権者の負担が大きいため、処分清算方式のほうが有利といえます。
なお、実行により当該譲渡担保権は消滅するため、その後同じ倉庫に商品が納入されても、それは担保権の対象とはなりません。