4.5 相殺

4.5 相殺中小企業債権回収119番

問い 私は会社の経営者ですが,当社は甲に対し売掛金100万円を有しています私は,甲から個人的に100万円を借りていますが,これを会社に譲渡して相殺することはできますか?甲から破産の受任通知が来た後はどうなりますか.
答え

制度趣旨および概要

相殺が認められるためには,
① 相殺する債権(自動債権)と相殺される債権(受働債権)が当事者間で対立していること
② 自働債権と受働債権が同種の目的を有すること
③ 自動債権が弁済期にあること
④ 相殺禁止債権でないこと
のいずれの要件も満たしている必要があります.

100万円の売掛金も,100万円の貸金返還債務もともに金銭債権であり,通常は相殺禁止債権ではないですが,売掛金が弁済期にあったとしても,売掛金の当事者は会社と甲である一方,貸金返還債務の当事者は会社の経営者と甲であるため,自働債権と受動債権が対立していません.
そのため,自働債権と受働債権を対立させるために,売掛金を会社から経営者に債権譲渡するか,貸金返還請求権について,その債務者を経営者から会社に変更するかのいずれかが必要となります.
本設問では,経営者が負う甲への貸金返還債務を会社に譲渡するとしているので,免責的債務引受によって,経営者の貸金返還債務を会社に帰属させることになりますが,この場合には,甲の同意とが必要となります.
したがって,免責的債務引受により,経営者の貸金返還債務を会社に帰属させれば,売掛金が弁済期にある限り,会社は,当該売掛金を自働債権として,貸金返還債務を相殺することができます.

しかし,甲から破産の受任通知が来た場合には,甲が支払不能状態にあるにもかかわらず,債務引受によって,自働債権と受働債権を対立させることで相殺を許せば,会社が事実上優先弁済権を得ることとなり,債権者平等の原則に反することとなるのと同時に,甲の財産を不当に散逸させる結果となるため,破産法71条,72条に照らして許されません.

(弁護士 太田 理映)