相続人全員の放棄
Q3、Q4でも述べたように、債務者に相続人がいる場合には、原則として、債権者は、当該相続人に対し、債権を行使することができますが、債務者に配偶者や子等相続人がいても、当該相続人全員が相続放棄をした場合には、債権者は、もはや、相続人に対して、債権を行使することができません。
このような場合に、債権者としては、債権回収をあきらめなければならないのでしょうか。
いいえ、そんなことはありません。債権者は、相続財産法人に対して、債権を請求することとなります。
相続財産法人
では、この「相続財産法人」(民法951条)とは何でしょうか。
債務者の相続人全員が相続放棄をした場合には、債務者には相続人が存在しないこととなりますが、法は、相続人不存在の場合や、相続人の存在が明らかでない場合において、債務者の相続財産(資産はもちろんのこと負債も含む。)を法人とすることを規定しています。これを「相続財産法人」といいます。
しかし、相続財産法人を実際に誰が管理、運営するかについては、法律によって定められていません。そのため、このままでは、債権者は、相続財産法人から弁済を受けることができません。
そこで、債権者は、家庭裁判所に、相続財産の一切を管理する相続財産管理人を選任するよう申立てをします。
通常、家庭裁判所に相続財産管理人選任の申立てをすると、申立後1~2か月程度で、相続財産管理人が選任されます。この相続財産管理人は、弁護士等の専門職が多いです。
相続財産管理人が選任されると、相続財産管理人は、債務者の相続財産を調査の上、一定の期間内に、債務者の債権者等に対して、債権の届出をするよう公告します。
その際に、債権者は、自己が債務者に対して有する債権の種類、金額等を、相続財産管理人に届け出ることとなります。
相続財産管理人は、債権の届出を受けて、当該債権の内容を検討し、その内容が認められるものであれば、債権者に対し、債務者の相続財産から弁済することとなります。
債務者が債務超過の場合
債務者の全相続人が相続放棄をしていることからすると、債務者が債務超過にある可能性が高いため、当該債権が優先的効力のあるものでない限り、債権者が届け出た債権の全額が弁済される可能性は低く、他の債権者との按分比例となることが予想されます。
相続財産のうち、負債が資産を圧倒的に上回る場合には、当該相続財産法人が破産手続きに移行する場合もありますので、ご留意ください。
(弁護士 太田 理映)