取引開始時の注意点
契約に基づき発生する金銭債権は,その契約上,当然に,契約当事者間で定めた支払期日に支払われることを前提として定められていますが,支払期日における債務者の資金状況等によっては,債務者が金銭支払債務を履行しない,又は履行することができないということがあります.
そうすると,債権者が有する債権は,不良債権化することになりますが,これは,債権者としては何としても避けたいところです.
そこで,債権者としては,契約の締結に際し,契約の相手方である債務者の経済状況等を徹底的に調べることで,債権者が有する金銭債権の不良債権化を回避し,確実に債務者から弁済を受けることができるようにする必要があります.
これを,一般的には「与信管理」といいます.
では,これから,この与信管理のポイントについて,簡単にご説明します.
内部調査
まずは,債権者(正確には,これから債権者になる予定の者)による内部調査が必要です.
例えば,契約の相手方(すなわち,債務者になる予定の者)の元を訪ね,または連絡をするなどして,相手方が実在するのか,会社事務所は賃貸物件なのか自社物件なのか,従業員は何名いるのか,相手方事務所の雰囲気はどうか(活気があるのか,整理された環境なのか,従業委員の対応はどうか)等を自らの目で確認することが挙げられます.
また,契約予定の相手方から,取引申込書を差し入れてもらい,この申込書に,資本金の額や,従業員数,主要取引銀行等を記入してもらう欄を設けることも,相手方を知る上では有用です.
外部調査
次に,債権者としては,債務者に関し,外部に公表されている情報を入手し,検討分析することも必要です.
例えば,商業登記簿を入手し,会社の商号や本店所在地が頻繁に変更されていないか(頻繁に変更されているような事情があれば,債権者からの追及を逃れようとしているおそれがある),会社の目的が大幅に変更されていないか(経営方針を大幅に変更しなければならない資金状況にある可能性がある),資本金が削減されていないか(欠損が生じている可能性がある),500万円以下の増資を繰り返していないか(500万円以下の現物出資は,検査役による検査が不要であるため,架空の現物出資の可能性がある)等を検討したり,債務者が保有している不動産登記簿を入手し,担保の設定の有無,担保が設定されている場合に,いくらの抵当権が設定されているのか等を検討する必要があります.
また,EDINET(場合によっては,債務者のウェブページ)から,債務者の決算書類を入手し,債務者の財務状況を検討することも可能です.
依頼調査
さらに,取引規模,取引期間によっては,信用調査会社に,債務者の調査を依頼し,同会社からのレポートを分析することも必要です.
担保の設定
これらの調査に基づき検討した結果を基に,契約予定者との契約の締結の可否,支払条件,支払期日等諸条件を整えていく必要があります.
これに加え,契約締結後に発生し得る事情によって,債務者が債務を履行しない場合に,これによって債権者が被る損害を最小限に抑えるべく,取引規模に応じて,担保の設定も検討すべきです.
担保の種類には,人的担保と物的担保の2種類あり,人的担保としては,保証人の設定,物的担保としては,代表的なものとして,抵当権の設定,譲渡担保の設定,指揮権の設定が挙げられます.
(弁護士 太田 理映)