3.9 抵当権の実行

3.9 抵当権の実行中小企業債権回収119番

抵当権の実行とはどのようなときに利用するものですか。
答え 不動産に抵当権(または根抵当権、以下同)が設定されている場合、取引先が期日に支払いをしないときは、訴訟等を経ずに抵当権を実行して債権を回収することができます。

 

特徴

訴訟等によって債務名義を得れば、債務者所有の不動産に対して強制執行することができます。しかし、あらかじめ不動産に抵当権を設定しておけば、債務名義を得ることなく、不動産に対する強制執行と同様の手続きで簡易に債権回収を図ることができます。  不動産からの債権回収についての方法・特徴等については別項で詳しく解説しますが、抵当権実行は債務名義なしに行われるというのが強制執行との大きな相違点といえます。

具体的な要件としては、

  1. 被担保債権(抵当権により担保された債権)および抵当権が存在すること。
  2. 被担保債権が履行遅滞に陥っている(弁済期が到来している)こと

となります。

問題点

上記のとおり、抵当権実行は強制執行に比べて簡易な手続きで回収を図ることができますが、問題もあります。

  1. 費用
    費用として、予納金、手数料、郵券、差押登記のための登録免許税等がかかります。具体的な金額については裁判所によって異なりますが、予納金や登録免許税は、請求額に応じて変化するもので、場合によっては100万円以上の費用が必要とされることがあります。また、抵当権実行では目的不動産を競売または収益により執行することとなりますが、競売にした場合、その売却価格は通常の取引価格に比べて相当程度(約2、3割)低額になります。
  2. 期間
    申立てから配当まで、1年弱の期間を要します。場合によっては2、3年要することもあります。
  3. その後の債務者との関係
    抵当権実行は債務者の意思にかかわらず行われるため、それにより満足に回収ができなかった場合、その後債務者との回収交渉に支障を生ずる場合があります。

以上のような問題があるため、抵当権を実行するより、担保不動産を市場価格で売却させたほうが満足を得られる場合があります。すなわち、相手方に任意売却を促し、高額で売却できた場合はその中から一定程度金銭を提供する、といった提案をすることにより、抵当権を実行する場合よりも簡易迅速に多額の回収ができる場合もあります。
抵当権実行に当たっては、そのような事情も考慮の上、より利益が得られる方法を選択することが重要です。