動産売買先取特権
動産を売り渡しても代金を支払わない場合は、動産先取特権が民法上当然に(そのための契約なしに)成立します。その結果、当該動産を競売するなどして、代金債権を回収することができます。第三者が強制執行として当該動産を差し押さえても、先取特権者は配当要求をすることができます。これらの際は「担保権の存在を証する文書」の執行裁判所への提出が必要です。具体的に何が当該文書にあたるかは法定されていませんが、少なくとも契約書は必要と思われます。
そして、これは債務者が破産しても別除権として認められ、優先弁済権が残りますので、債権回収を図る最後の武器となりうるものです。
転売代金債権への物上代位
売買目的物が代金未払いのまま第三者に転売されても、その物が実際に第三者に引き渡されない限りは、先取特権は有効なので、上記方法での回収を図ることができます。
しかし、第三者に引き渡された後は、先取特権の効力はなくなります。なお、当該商品への譲渡担保権の設定(Q35)は引き渡されたと同様に解されており、譲渡担保権が優先するとされています。
ただし、先取特権には物上代位が認められています。物上代位とは、担保物権の目的物が売却、破損等した場合に、売買代金、保険金にも担保物権の効力が及び、それらから債権回収することができる制度です。これを行使するためには、転売代金が第三債務者から取引先に支払われる前に差し押さえることが必要です。また、差押えにあたっては、通常の先取特権の行使の際と同様、「担保権の存在を証明する文書」の提出が法律上必要とされています。加えて、転売の事実を裁判所に証明するため、転売の契約書等が必要になりますが、その前提として、第三債務者の協力を事前に取り付けておくことが重要になります。
物上代位による差押えは、他の一般債権者の差押えに優先するものとされており、また債務者が破産してその財産が管財人の管理下に置かれても物上代位は可能とされています。これは、債権回収の集団的秩序の中で、売主の地位が一般債権者の中でも優位に置かれているものといえます。
ただし、他の一般債権者が差し押さえたのみならず転付命令まで得ている場合や、債権譲渡を受けている場合には、物上代位は否定されることとされており、この点には注意が必要です。
最後に
商品の売買代金について、先取特権やそれに基づく物上代位により回収を図ることは可能ですが、裁判所を介した手続きが必要であり、状況に応じて内容も異なっており、専門的な知識も必要となります。そこで、弁護士に相談し、状況に応じたベストな方法を採用していくことをお勧めします。
(弁護士 南波 耕治)