債権回収の落とし穴?
上記の通り、債権は一定期間行使しなければ時効により消滅してしまいます。しかも、債権が消滅するとそれに付随していた保証債務や担保権も消滅することとなるうえ、 起算日にさかのぼって消滅するので、元本が時効により消滅すると、利息・損害金も発生していなかったことになってしまいます。これは、債権を管理する者にとっては極めて重大なミスであり、取り返しがつかないことになります。
消滅時効 の期間
消滅時効の期間は、債権の種類によって異なります。
一般の民事債権は10年ですが、会社間の貸付金や立替金などの一般の商事債権は5年とされており、その他、さまざまな種類に応じて期間が定められています。中でも、工事請負代金債権の3年、売掛代金債権の2年、運送代金債権や飲食代金の1年の時効期間などが重要といえます(下記参考文献①p116の表参照)。
また、上記期間の起算点としては、金融機関の融資取引の関係契約などの例外を除き、原則として「権利を行使することができる時」とされています。
このように、種類によって時効期間が異なっており、債権を管理する者にとって非常に分かりにくいものとなっている点には十分に注意する必要があるでしょう。しかし、後述の通り、このような分かりにくい規定は民法改正によって統一される見込みとなっております。
援用
消滅時効の期間は上記の通りですが、上記期間が経過しても、債務者が援用しない限り時効による消滅とはなりません。すなわち、時効期間が経過しても、債務者が「時効の利益を受け、債権を消滅させます」と意思表示しない限り、債権は消滅しません。そのため、時効期間が経過しても、債務者に平然と請求して、債務者側が気付かず、援用しなければ、債権を回収することができます。なお、次のQで説明しますが、一部でも債務者が支払ったり、債務の存在を承認したりすれば、時効が中断しますので、その時点から再び時効期間が経過しなければ債権が存続することになります。
民法改正
現在、民法の改正に関する法案が国会で審議されようとしています。そこでは、上記のような、種類によって時効期間が異なるといった現状が改正される予定です。
具体的には、一部の例外を除いて債権の種類による区別をせず、
「権利を行使することができることを知った時から5年」
または、
「権利を行使することができる時から10年」
と時効期間が統一される予定です。
短期の消滅時効が廃止となり、統一的取扱いとなるため、債権管理は従前よりもやりやすくなるものと思われます。
(弁護士 南波 耕治)