財産調査の目的
債権の回収の前提として、そもそも回収トラブルを起こしそうな相手との取引を避けることが必要です。また、いざ相手の信用状態が悪化したときに、差し押さえるべき物がどこにあるかを把握しておくことも必要です。以上のことから、取引開始前に相手方を信用できるか調査する必要があります。
商業登記簿謄本の取得
新しい取引先との取引を検討する際は、まず相手会社の商業登記簿謄本を入手します。これは法務局で入手することができます。入手したら、その内容を以下のとおり順に確認していきます。
① 商号
会社の名称です。同じ「A」と名乗っていても、「株式会社A」「A株式会社」「有限会社A」「A有限会社」はすべて別の会社です。相手の担当者が差し出した名刺と、登記簿謄本に記載された商号が異なる場合は、注意が必要です。
なお、同一市区町村内に全く同じ商号の会社が複数存在する可能性もあります。同一の本店所在地で同一の商号の登記をすることはできないので、商号と本店所在地の情報を併せることで、どの会社が取引相手なのかを特定することができます。
② 本店所在地
通常は、相手方の本社オフィスとして稼働している場所が本店所在地として登記されていますが、全く別の場所が本店として登記されている場合もあります。直ちに問題があるわけではないですが、その理由は確認しておく必要があるでしょう。
また、本店所在地の土地建物については、不動産登記簿謄本を取得して、相手方が所有しているものかを確認しておくとよいでしょう。
③ 会社成立の年月日
いつからその会社が存在するかが分かります。一般的には社歴が長い方が信用度が高いと考えられますが、古い休眠会社を現経営者が買い取って悪用している場合もありますので、絶対的な指標ではありません。
④ 目的
その会社がどのような事業を行うかを定めたものです。実際に現在行っている事業であるかは、登記簿謄本だけでは判断できません。
⑤ 資本金の額
会社債権者の保護のために、株主の出資を一定金額以上会社財産として保有させる仕組みです。資本金の額が大きいほど会社の規模も大きいことにはなりますが、現実にそれだけの現金がプールされているわけではないことには留意しておく必要があります。
⑥ 役員に関する事項
まず、会社の代表者として行動している者が代表取締役として登記されているか確認する必要があります。別人が登記されている場合、その理由を確認する必要があります。
また、代表取締役の欄には、代表取締役の住所が記載されています。実際にこの場所に行くことにより、代表取締役の暮らしぶりが分かります。さらに、住所地の土地と建物の不動産登記簿を入手することにより、その土地建物が代表取締役の個人資産かどうかを確認することができます。
さらに、他の取締役の欄も確認すると、役員構成の遍歴が分かります。取締役が次々に辞任しているような場合は特に注意が必要です。
個人相手の場合
取引相手が個人の場合は、顔写真入りの本人確認書類の提出を求める必要があります。また、それ以外に欲しい情報として、勤務先はどこの会社か、という点があります。これは、債権回収のために差押えが必要になった場合に、給料を差し押さえることが考えられるからです。
相手からのヒアリング・書類の徴求
公的な書類から把握できる情報は限られています。相手の会社がどのような会社かを判断するには、相手の会社に赴いて代表取締役と会うことが一番です。代表取締役からは、信用に足りる人物か、業務に関する知識を十分に有しているか、といった情報が得られます。また、相手の会社に赴くことで、事業がきちんと稼働しているのか、資産はきちんと保管されているか、従業員の士気は旺盛か、といった情報を得ることができます。
また、取引先銀行(支店)や売掛先はどこかといった情報も得るようにしましょう(ホームページ上で公表している会社も少なくありません)。これらの情報は、相手の会社が支払をしないために債権を差し押さえることになったとき、必要となります。
さらに、可能であれば、相手の会社の決算書の提出を求めましょう。決算書を見ることで、経営の状況(現預金や不動産があるのか、利益は順調に伸びているのか、など)に関する情報を把握することができます。
相手の会社が不動産を有している場合には、その所有者(会社なのか、代表者個人なのか、第三者なのか)を調査するとともに、抵当権や根抵当権といった担保権が設定されているか、税金の滞納等による差押え等がないかも調査しましょう。これらの情報は、法務局で入手できる不動産登記簿謄本から得ることができます。
信用調査会社の活用
信用調査会社は、全業種に対応している会社と、特定の業界を得意としている会社があります。また、どの範囲まで調査してもらうかによって費用が変わります。どの会社にどこまでの調査を依頼するか検討しておく必要があります。
なお、信用調査会社による調査といっても、外部からの聞取り調査が基本なので、限界があります。鵜呑みにするのではなく、一つの参考として考えることが必要です。有力な活用法としては、これまでに得ていた情報と信用調査会社の調査結果とが異なる場合で、当方が相手方から提供されていた情報が嘘だと分かったときに、取引開始を断念する、ということが考えられます。
(弁護士 鈴木 俊行)