1.1 債権とはどのようなものですか? – 債権者平等の原則

1.1 債権とはどのようなものですか? – 債権者平等の原則中小企業債権回収119番

そもそも債権とはどのようなものですか?
人に対する行為請求権のことです。

債権の特徴

債権は,人に対する行為請求権のことで,物に対する直接支配権である物権とその性質が異なるとされています。

では,物権と異なる債権の特徴とはなんでしょうか?

それは,債務者という「特定の人の行為」を通じて実現される権利であるということです。これを「債権の相対性」といいます。物権が物を直接支配するのと異なり,債務者の行為を通じて間接的にしか利益を享受することができないのです。また,一つの物には一つしか成立しないという物権と異なり,債権は成立の先後を問わず平等に複数成立します。これを「債権の平等性」といいます。複数債権が成立した場合に,どの債務を履行するか債務者の自由意思に委ねられております。

したがって,債権者としての立場からすると,債務者の自由意思に基づき任意に履行してもらうのが最良の実現方法であり,任意に履行してくれる相手方とだけ取引することが,つまり,相手方の「信用」が決定的に重要なのです。

債権の実現方法と債権者平等の原則

とはいえ,常に信用できる相手方とだけ取引をするのは至難の業です。どうしても任意に履行してくれない相手方がでてくるのが通常です。その場合,訴訟等の法的手段によって債務名義を得て強制執行によって実現する方法もありますが、費用も時間もかかります。現金の入金時期によって債権の現在価値は変わりますから,債権の実現方法を検討するにあたっては,費用対効果という視点が大切になります。長期でも全額回収するのか,早期に一部回収ですませるのか基本方式を決めて,それぞれの場合の手続にかかる費用の額を衡量して経済的合理性の見地から決定することになります。

しかしながら,法的手続をとっても全額回収できるとは限りません。先述の「債権の平等性」は,執行段階においては,各債権者の債権額に応じて平等に比例配分されるという形で現れます。これを「 債権者平等の原則 」といいます。破産における債権の配当に規定があります(破産法40条)が,破産に至る以前の手きにも平等主義が適用されるかというと議論があり,意見が一致しているわけでありません。平等主義に対比されるものに「優先主義」があります。これは,差押又は強制加入の時点が早いものに優先権を認めるものです。債権執行では,平等主義を維持しつつも,配当要求の資格及び時期を厳格にして優先主義を加味した規定になっており(民事執行法165条),判例によって事実上の優先弁済が認められ優先主義を採用したのと同様の結果になっていることもあり,事態は単純ではありません。

話し合いによる解決を優先しよう

そもそも経済的合理性のみで解決できない事態に陥っていることも多々あります。相手方が自分に債権を任意に履行しない場合,他の債権者にも同様に履行をしていないことがあります。つまり、無資力ないし倒産状態に陥っていることがあり,実際に破産手続に至って平等主義が現実化するまでの間,多くの債権者の利害関係が複雑に絡み合う状況になることがあります。そのような場合に,自分の利益のみを考え,経済的合理性のみで判断をすると,思いもよらぬ恨みを買うことがありえます。世の中単純にどちらが正しいという割り切れるものではありません。たとえ正しいことをして逆恨みによって刺されて死んでしまったら,人生トータルで言えば全く合理的ではありません。そのような事態をさけるためにも,相手方の履行が遅れているときは,まず虚心坦懐に,なぜ履行が遅れているのかその理由を尋ね,法的手段によらず話し合いによって債権を回収するのが望ましいのです。

保護される債権者とは?

居留守を使って連絡がとれないとか,誠意のみられない債務者には法的手段によらざるを得ません。財産を隠したりして強制執行を妨害するような悪質な債務者には刑事告訴も検討する必要があり,債権者として検討すべき事項,対策は多岐にわたり,一朝一夕で身につくものではありません。債権回収は債務者との知恵比べであり,債務者と闘う勤勉な債権者が保護されるのです。そして,周到な事前の準備と迅速さが債権者の武器なのです。

債権にせよ物権にせよ権利は,観念ですから,これを実現するためには自ら行動する必要があります。

少し昔の話になりますが,ドイツの法学者ルドルフ・フォン・イェーリングは『権利のための闘争』(岩波文庫頁)で次のようなことを述べています。
「私が訴訟を億劫がるだろう、不精で怠惰で優柔不断な態度を取るだろうという思惑で私の正当な権利を奪おうとする債務者に対しては、どんなに高くつくとしても私の権利を追求すべきであり、追求しなければならない。それをしなければ、私はその権利を失うばかりでなく、およそ権利一般を放棄することになってしまう。」

道のりは決して平たんではありませんが,今から始めても決して遅くありません。次回は,債権回収の相手方,について勉強をしましょう。

弁護士 高澤文俊