3.3 管理監督者 ―労働時間・休日の規制の適用除外

3.3 管理監督者 ―労働時間・休日の規制の適用除外社長のための残業代対策119番労働基準法の定める労働時間・休日の規定(労働基準法32条、34条、35条)が適用されず、残業代の支払われない例外的な場合があります。

  1. 農業、畜産・水産業に従事する者(同法41条1号)
  2. 管理監督者、機密の事務を取り扱う者(同条2号)
  3. 監視・断続労働従事者(同条3号)

の三者ですが、ここでは、「管理監督者」について説明します。

管理監督者 とは

労働基準法の根拠

労働基準法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」については、労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用しないと定められています。このことが一般に「管理職だから残業手当は必要ない」と言われていることの根拠です。

管理職手当ないし役職手当の支給

近時は会社の組織をフラットにして命令系統を単純にする会社が増えていますが、日本では、伝統的に、昇進競争の動機づけのためピラミッド型の命令系統の会社が多かったのです。そのため、管理監督者については、時間外勤務手当等が支給されない代わりに、管理職手当ないし役職手当が支給されていることが通常でした。

管理職手当・役職手当に時間外割増手当が含まれるとの制度を採用した場合には、定額残業代制度が問題になります。この点に関する詳細はこちらの記事をご覧ください。

行政解釈

解釈例規においても「監督若しくは管理の地位にある者」とは、

  1. 部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意味である。
  2. 労働時間規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も労働時間規制に馴染まないような立場にあるものに限り例外的に規制の適用除外を認めるのがその趣旨である。
  3. 名称にとらわれず、当該職務の内容、権限と責任、勤務態様の実態に即して判断すべきものであり、賃金等の待遇面も考慮すべきである。
  4. いわゆるスタッフ職も企業内の処遇の程度等によっては管理監督者に該当し得る。

とされています(昭和63年3月14日基発150号)。

そのため、単に部長や課長等の名称のつけられた役職になっても、実態に即して判断されますので、残業の支払の必要のない管理職ではなく、残業手当を支払わなければならない「名ばかり管理職」と判断されることがあります。管理の地位にある者ではなく、名ばかり管理職ということになると、労働基準法の労働時間・休日の規制が適用されますので、名ばかり管理職に対しては残業代の支払いをしなければなりません。

深夜業は除外されない

管理監督者と雖も「深夜業」に関する規定は適用除外ではないので、深夜業となる場合は割増賃金を支払わなければなりません。

どんな場合に「名ばかり管理職」と判断されるか。

上記のとおり管理監督者については、実態に即して判断すべきものですから、会社内での待遇等の個別の事情を検討することが必要です。そこで、裁判例に現れた、名ばかり管理職の具体例を挙げてみます。

全国展開するチェーン店直営店の店長

ファーストフード店の直営店の店長が管理監督者にあたらないと判断された裁判例(東京地方裁判所平成20年1月28日判例時報1998号149頁日本マクドナルド事件)は報道で取り上げられ、社会問題になったこともあり、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

管理監督者 に当たるといえるためには、同裁判例では、

  1. 職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか、
  2. その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か、
  3. 給与(基本給、役付手当等)及び一時金において、管理監督者にふさわしい待遇がされているか否か

などの諸点から判断すべき、としています。

上記マクドナルド事件では、労働時間規制の除外の実質的根拠について、前掲行政解釈(昭和63年3月14日基発150号)に大筋では従いつつも微妙に表現を変えて、管理監督者が企業全体の事業経営について経営者との一体的な立場にある者として重要な職務と権限を与えられていることに求めており、その結果、労務管理について経営者と一体的な立場にある者に限定されず、企業全体に関する経営者との一体的な立場が必要であるとの立場をとっております。

取締役工場長

橘屋割増賃金請求事件(大阪地裁判決昭和40年5月22日)

一度も役員会に招かれず、役員報酬なく、他の労働者と同じ賃金体系、出退社管理、監督管理権他の常務取締役にあった等の事案では管理監督者に当たりません。

課長

サンド事件(大阪地裁判決昭和58年7月12日労働判例414号63頁)

工場内の人事に関与することがあっても独自の決定権はなく、勤務時間の拘束を受けており、会社の利益を代表して工場の事務を処理するような職務内容・裁量権限・待遇を与えられていなかった事案では管理監督者に当たりません。

係長

リゾートトラスト事件(大阪地裁判決平成17年3月25日労働経済速報1882号28頁)

日常的な経理事務処理を担当しており、出勤簿と朝礼時の確認により勤怠管理を受けており等の事案では管理監督者に当たりません。

営業課長

育英舎事件(札幌地裁判決平成14年4月18日労働判例839号58頁)

経営企画会議に参加していたが、この会議は社長への諮問機関に過ぎず、経営への参画を示すものではなく、出退勤についてタイムカードヘの記録が求められ、給与等の待遇も役職にふさわしいものといえない等の事案では管理監督者に当たりません。

マネージャー

日本コンベンションサービス事件(大阪高裁判決平成12年6月30日労働判例792号103頁)

労務管理の関与は考課の際に意見を述べる程度で、出退勤の自由はなく、時間配分が個人の裁量に任されていたとは考えられない等の事案では管理監督者に当たりません。

ファミリーレストランの店長

レストランビュッフェ事件(大阪地裁判決昭和61年7月30日労働判例481号51頁)

出退勤の自由なく店舗の営業時間に拘束され、仕事の内容はコックはもとよりウエイター、レジ係、掃除等におよび、ウエイターの賃金等の労働条件は、経営者が決定していた等の事案では管理監督者に当たりません。

スタッフ職

ジャパンネットワークサービス事件(東京地判平成14年11月11日労働判例843号27頁)

担当業務に裁量はあったが、他の従業員の労務管理に参画していたとはいえず、緩やかであったがタイムカードで管理され、基本給は月額40万円であったが、部長手当は支給されていない等の事案では管理監督者に当たりません。

早急に確認すべきこと

残業代を支払わなくてもよい管理監督者の判断基準は、労働時間・休日に関する法の定める例外の規定ですので、裁判例では相当に厳格に運用されているということができます。一方で単に管理職だから、という名称や慣行で残業代を支払っていない場合が広く見受けられます。「名ばかり管理職」か、適法な管理監督者であるか、すでに述べた判断基準の確認が早急に必要でしょう。

参照通達

  • 昭和52年2月28日基発第104号の2「都市銀行における「管理監督者」の取扱い範囲」
  • 昭和52年2月28日 基発第105号「都市銀行等以外の金融機関の場合」

(弁護士 大河内將貴)

2014年9月9日(2015年8月28日改定)