財産評価基本通達 による算定方法 -自社株評価のポイント②-

株価の算定方法には、様々な方法がありますが、相続財産の評価に関する 財産評価基本通達 が最もよく利用されます。財産評価基本通達は、取引相場のない株式の評価について、以下の3つの算定方法を組み合わせて使っています。

財産評価基本通達 における算定方法

純資産方式

会社の純資産を基にして、株価の算定を行う方式です。(総資産の額−総負債の額)で算出された純資産額を、株式数で割ることによって算出されます。

類似業種批准方式

類似の会社、事業の資産や利益等の複数の比準要素を比較することによって株価を算定する方式です。財産評価基本通達では、株価、一株あたりの配当額、一株あたりの利益額、一株あたりの純資産額を、基準となる業種目別の数値と比較して算出します。算定に必要となる業種目別の1株当たりの配当金額、利益金額、純資産価額及び株価は、毎年国税庁が通達で示しています。

配当還元方式

その株式を所有することによって受け取る一年間の配当金額を、一定の利率(10%)で還元して元本である株式の価額を評価する方式です。

前提となる会社の区分

以上の3つの算定方法ですが、納税者が自由に使い分けることができるわけではなく、会社の規模に応じて組み合わせ方が定められています。まずは、会社の規模により、以下のとおりに区分されます。

大会社

従業員が、100人以上、または、
総資産額が、卸売20億、小売・サービス10億、それ以外10億(従業員が50名以下の会社は除く)、または、
売上が、卸売80億、小売・サービス20億、それ以外20億

中会社

大会社以外で、
総資産額が、卸売7000万、小売・サービス4000万、それ以外5000万以上(従業員が5名以下の会社は除く)、または、
売上が、卸売2億、小売・サービス6000万、それ以外8000万以上

小会社

大会社・中会社にあたらない会社

3つの算定方法の使い方

大会社

大会社は、原則として、類似業種比準方式により評価します。
但し、納税者の選択により純資産方式によることができます。

中会社

中会社は、原則として、類似業種批准方式による評価と純資産方式による評価を併用します。どちらの評価をどのくらい重視するか(斟酌率)は、総資産価額、従業員数、直前期末以前1年間における取引金額によって変わってきますが(0.9~0.6)、規模の大きな会社ほど類似業種批准方式を重視することになります。
但し、納税者の選択により純資産方式によることができます。

小会社

小会社は、原則として純資産方式によることになります。
但し、納税者の選択により、類似業種批准方式と純資産方式の併用によることもできますが、類似業種批准方式の斟酌率は0.5となります。

配当還元方式を用いる場合

同族株主以外の株主等が取得した株式については、その株式の発行会社の規模にかかわらず、配当還元方式で評価します。これは、同族株主と違って会社経営に参画できず、配当をもらうことしかできないことから、株価も配当を基準に算定することとしたものです。

財産評価基本通達による評価の意味

事業承継の場面に限らず、取引相場のない株式の評価が、財産評価基本通達によって算定される場面が多く見られます。公的に確立した基準であり、また算定も容易であることが理由でしょう。しかし、本来、会社はそれぞれ、資産の換価可能性・容易性や収益の源泉、リスクの所在・大きさなどが異なりますから、このような個別の事情も斟酌しなければ「会社の価値」ひいては株式の価値を算出することは困難なはずです。
にもかかわらず、財産評価基本通達が機械的に株式の価額を算出することとしているのは、税金の徴収という大量な業務を処理するためです。
そのために、財産評価基本通達は、いくつかある評価方法のうち低い金額となる評価方法の選択を認めています。一方で、節税を目指す税理士・コンサルタントにより自社株評価を押さえ込む手法も発達しています。

しかし、税務署以外が相手となる場面では、「会社(株式)の正しい評価額」を追い求めようとする場面が多々あります。株式譲渡や裁判などの場面です。そこでは、財産評価基本通達による評価額とはかけ離れた金額が会社(株式)の評価額とされることもあります。しかし、それは、株価を評価した税理士の誤りでも、財産評価基本通達の誤りでもないのです。
財産評価基本通達が、そういうものであるということを理解しておくことが重要です。

※本サイトは、あくまで考え方の概略を示すものです。具体的な処理においては、必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談下さい。また、情報が古くなっている可能性がありますので、最新情報は必ずご確認下さい。
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税務会計と企業会計の違い -自社株評価のポイント①-

事業承継対策において最も問題になるのは、自社株式の評価です。自社株式の評価は相続税・贈与税の税額算定の際に顕著に問題になりますが、企業内承継における売買代金の調達や、遺留分減殺請求がなされた場合など、税額算定以外の場面でも問題になります。

そこで、これから、自社株式の評価をめぐる問題について検討していくことにしましょう。

まず今回は、前提となる税務会計と企業会計の違いを検討しましょう。

全ての企業は確定申告をしなければなりませんから、決算書や附属明細書を作成しているはずです。経営者としては、経理担当者や税理士が真面目に仕事をしてさえいれば、決算書に記載されている数字が会社の状況を表す唯一の数字であると考えているかもしれません。

しかし、税務会計と企業会計(財務会計ともいいます)とは違うものです。ここを理解しておかないと、会社について把握していた数字が場面によって通用しない、というケースに驚くことになるかもしれません。税務会計と企業会計、一体何が違うのでしょうか。

何のための会計か

税務会計は、税金の計算をするために使います。そこでは、税金を徴収する側(国・地方自治体)からすると利益が多い方がいいのですが、企業側からすると利益は少ない方がいいことになります。

一方で、企業会計は、会社の状況を知りたい株主や債権者等のステークホルダーに対して、会社の財務状況を説明するために使います。このとき、株主や債権者としては、利益が過大に計上されていては困ります。しかし、企業側からすると、利益が多く出ているように見えた方がいいことになります。

税務会計と企業会計の違いを式で表すと、以下のとおりとなります。

税務会計 所得金額=益金-損金
企業会計 利益=収益-費用
益金≒収益 損金≒費用

何が違ってくるのか

税務会計は、税金を徴収する側である国が認めた分しか損金として認められません。将来生じるであろう費用であっても、未だ発生していないのであれば損金として計上してはいけないことになります。また、飲み食いした支出については、国が認めた範囲でしか損金として計上できないことになります。

一方で、企業会計においては、将来生じるであろう費用であっても、事前に株主・債権者に対して説明するために、現時点で費用として計上すべきものがあります。例えば引当金を積むのは、こういう理由からです。また、飲み食いの費用についても、使ってしまって利益を圧迫するのであれば、税務会計上は損金として認められないとしても、費用として計上しなければならないのです。

企業会計と税務会計の調整

企業会計と税務会計の調整ですが、建前としては、企業会計によって計算された利益を基礎として、税務申告の際に、例えば法人税においては確定申告書の別表4において調整されます。制度としては、企業会計も税務会計も両方が行われることになっているのです。

企業会計
 ↓
申告調整
 ↓
税務会計

しかし、同族会社である中小企業においては株主に対して説明をする必要がほとんどありませんので、税金対策を優先して、企業会計の時点で、公正な会計慣行からは本来許されない処理をするケースがまま見られます。見方によっては、このあたりが税理士の腕の見せ所なのかもしれません。

ここで行われる処理は、税金を少なくするように、すなわち、利益を少なくするようにするための、いわばグレーな処理です。税務署との間でグレーを黒と判断されなかったとしても、例えば裁判所に対してはそのまま通用しないことがあり得ます。裁判所が鑑定嘱託した会計士に、本当はもっと利益が出る会社でしょう、と判断されることがありうるのです。

まとめ

事業承継について考えるときには、企業会計と税務会計の違いを意識してスキームを組み立てなければなりません。もちろん事業承継で一番大きな問題は税金問題ですから、税理士を頼らざるを得ないのですが、税金の申告以外の場面まで想定してくれているかどうかは要チェックです。

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後悔したくない事業承継|週刊ダイヤモンド2014/09/13

週刊ダイヤモンド | 2014年9月13日号目次 | 特集「相続重税!」
週刊ダイヤモンド2014/09/13の特集記事「相続重税!」中に、「後悔したくない事業承継」という記事がありました。
わずか6ページの記事ですが、種類株を活用した事業承継や、資産管理会社の設立等、近時の事業承継対策について、わかりやすく書かれています。事業承継問題に直面している方は、一読しておいて損はないでしょう。

ただし、事業承継が現実問題になっている方は、それぞれの問題に応じて、もう少し掘り下げる必要があります。

なお、このパート以外にも、生命保険の活用等、事業承継対策に関係ある記事がありました。

事業承継を検討する際に見ておくべき公的サイト5選

事業承継に関する情報は、中小企業庁その他の公的機関のサイトから相当程度得ることができます。 これらのサイトからの情報により、事業承継を巡る問題点を俯瞰的に把握することもできるし、支援制度の知識を得ることもできます。 以下、見ておきたい公的サイトを5つご紹介します。

1 中小企業庁|財務サポート「事業承継」

中小企業庁:財務サポート「事業承継」
中小企業庁の施策が一覧できるサイト。 問題点の洗い出しというより、新着情報により公的支援の方向付けがわかります。 また、ここからダウンロードできる各種リーフレットは必見です。

中小企業事業承継ハンドブック29問29答 平成22年度税制改正対応版

中小企業庁:中小企業事業承継ハンドブック 29問29答 平成22年度税制改正対応版 ~これだけは知っておきたいポイント29問29答~
少し古いリーフレットなのか、上記サイトに直接アップされていないようです。 しかし、事業承継の問題点を俯瞰的に把握する出発点として、外すことができない資料です。

2 ミラサポ|事業承継 早わかりガイド

事業承継|ミラサポ 未来の企業★応援サイト
中小企業庁の委託事業として行われている、中小企業支援のポータルサイト。 開設直後は正直言ってかなり使いにくかったのですが、最近少しずつ改善されており、情報量も増えてきました。 情報提供というよりも、中小企業と支援者の双方向ツールを目指しているようです。

3 中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)|事業承継円滑化支援

中小機構:経営力の強化: 事業承継 中小機構は、中小企業庁が策定する施策の実働部隊という見方をしてもよいでしょう。 フォーラム・セミナー・相談等、具体的な支援をしています。 経営者向けだけでなく、支援者向けの研修や情報提供も行っています。

中小企業経営者のための事業承継対策(平成25年度版)

中小機構:経営力の強化: 中小企業経営者のための事業承継対策(平成25年度版)
事業承継対策のリーフレットですが、上記の「29問29答」とは少し切り口が違います。 知識を入れるというよりも、少し実践的でしょうか。 実際に事業承継対策に取り組む場合にはこちらも見ておくべきでしょう。

4 アスプラザ(公益財団法人東京都中小企業振興公社)|事業承継・再生支援強化事業

事業承継・再生支援強化事業|東京都中小企業振興公社
地方自治体も、独自に事業承継の支援事業を行っています。 こちらは東京都のサイトですが、他の自治体も支援事業を行っている場合があります。

5 国税庁|相続税・贈与税・事業承継税制関連情報

相続税・贈与税・事業承継税制関連情報|国税庁
事業承継に税金の話は避けられません。というわけで、ご存知国税庁のページ。 但し、専門度合いが高く、経営者ご本人が見るのは大変かもしれません。

最後に

事業承継検討のスタートラインは、これらのサイトから始めるとよいでしょう。 サイトを見てみて理解が難しいところがあれば、身近な専門家に聞いてみましょう。

第1回事業承継セミナーのご案内

第1回事業承継セミナーを開催致します。
サイト開設記念キャンペーンとして、会費を低く抑えました。お気軽にご参加下さい。

日時:平成26年10月30日 午後6時~午後8時
場所:千代田区丸の内3-2-2 東京商工会議所ビル401号会議室
テーマ:自社株式の評価と相続税/遺留分/親族外承継
講師:弁護士 鶴間洋平
定員:20名(先着順)
会費:2000円

相続税の評価のために自社株式の評価を検討してみたことのある経営者の方は多いと思います。
しかし、自社株式の評価は相続税や贈与税の評価のためにのみ使われるものではありません。
事業承継を巡り、どのような場面で自社株式の評価が必要となるのか。
それぞれの場面における、純資産方式、類似業種比準方式、収益還元方式の組み合わせは。
一度きちんと整理しておきましょう。

受講を希望される方は、コンタクトフォームよりご連絡下さい。

吉岡毅 弁護士参加のお知らせ

今般、弁護士界における事業承継の第一人者である、 吉岡毅 弁護士(東京都港区南青山5-11-15 H&M南青山WEST305 吉岡毅法律事務所)に、顧問として参加頂けることになりました。

吉岡弁護士は、中小企業庁の事業承継関連の審議会等に参加し、同庁が作成した「中小企業事業承継ハンドブック~これだけは知っておきたいポイント29問29答~」の作成にも関与されるなど(ハンドブック末尾に名前がクレジットされています)、中小企業の事業承継問題に関し長くトップランナーとして活躍されてきました。
そもそも当サイトの設立も、もとを辿れば、弁護士会において吉岡弁護士が行った研修がスタートラインになっています。
吉岡弁護士は、当サイトのメンバーとは、第一東京弁護士会の委員会で活動を共にしてきただけでなく、弁護士会を離れても、中小企業庁による認定支援機関制度の創設と共に私的に設立した「中小企業経営革新支援ネットワーク」http://chusho-kakushin.net/において、共に活動してきました。
現在、吉岡弁護士は日本弁護士連合会の事務次長として多忙を極めておられますが、当サイトの趣旨に賛同頂き、顧問として参加して頂けることになったものです。

今後とも、当サイトをご愛顧頂きますようお願い致します。

特別企画 : 後継者問題に関する企業の実態調査|帝国データバンクより

今回は、帝国データバンクによる「後継者問題に関する企業の実態調査」を紹介します。調査結果の概要は以下のとおりです。

    1. 国内企業の3分の2が後継者が不在
    2. 社長の年齢が「60歳代」の企業では半数が後継者不在
    3. 後継者のいる企業における後継者の属性は、「子供」「配偶者」「親族」と合わせ同族が約7割
    4. 2012年度以降の社長交代率は10.8%。「建設業」「小売業」「売上高1億円未満」の企業で承継進まず。
    5. 企業のキャッシュを生む力は、不在企業が後継者あり企業の半分以下。社長の高齢化に伴い事業価値が低下

以上で特に興味深いのは、5点目の後継者不在の企業はそうでない企業と比べて収益力が低い企業が多い旨の調査結果です。この結果が価値のある企業であったにもかかわらず、後継者の決定が遅れたために現経営者が高齢化して企業の収益性が落ち、ますます後継者の決定が困難になる、という悪循環に陥るおそれもあることを示すものと断じることはできませんが、現経営者がまだまだ若いと感じる年代であっても、できるだけ早期の事業承継対策が講じる必要性を示すものとはいえるのではないでしょうか。

(弁護士大河内將貴)

企業庁、個人事業主向け共済制度で親族承継も“満額”支給へ|日刊工業新聞より

企業庁、個人事業主向け共済制度で親族承継も“満額”支給へ:日刊工業新聞

中小企業基盤整備機構が個人事業主や小規模企業の経営者を対象に運営する退職金制度「小規模企業共済制度」について、中小企業庁が、親族承継の場合にも満額支給する旨の法改正案を提出する方向で検討しているとのこと。

円滑な事業承継に資するものと期待できるでしょう。

小規模企業振興基本計画で原案/中企庁、起業を地域経済発展に|建設通信新聞

小規模企業振興基本計画で原案/中企庁、起業を地域経済発展に | 建設通信新聞

中小企業庁が、小規模企業振興基本計画の原案を作成した旨の建設通信新聞の記事です。
中小企業のうちでも、小規模企業に焦点を当てた政策です。
本年度、中小企業庁は、特に小規模企業対策に重点をおいています。

この基本計画には事業承継に関する事項も含まれていますので、ウォッチしていく必要がありそうです。