さて、実際の事業承継の場面においては、何をおいても、経営権及び資産を後継者に承継させなければなりません。
そこで、まず自社株式・事業用資産の承継方法についてみてみましょう。事業承継の観点からは、最も重要なのは、議決権の承継ということになります。
遺産分割
事前の準備なく経営者が死亡してしまった場合には、遺産分割(民法907条)によって自社株式の承継がなされることになります。
メリット | デメリット |
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遺言による承継
相続による承継について事前に準備する方法としては、第一に遺言による承継が考えられます。いわゆる「遺贈」(民法964条)です。
メリット | デメリット |
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最も大きな問題となるのは、遺留分減殺のリスクです。
死因贈与契約
生前に相続関係の対策を取る方法としては、死因贈与契約(民法554条)もあります。遺贈と異なり贈与者と受贈者との間の合意によってなされますが、メリット・デメリットの多くは遺贈による場合と同様です。贈与者の単独の行為でないために、自由に撤回できるかどうかが問題となりますが、負担付き死因贈与契約でなければ撤回でき、負担付き死因贈与契約の場合で受贈者が既に負担を履行した場合は撤回できないとされています。
生前贈与
相続以前に事業の承継をはかろうとする場合には、まず生前贈与(民法549条)の方法が考えられます。
メリット | デメリット |
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売買
これまで見てきた方法は、いずれも議決権を集中させることについて確実性に欠ける方法でした。確実性がかけるのは、相当な対価を支払わなかったからといえます。相当な代金額を定めて売買(民法555条)すれば、議決権を迅速かつ確実に後継者に承継することが可能です。
メリット | デメリット |
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信託を活用した事業承継
自社株を信託し、受益権と議決権の指図権に分離し、議決権の指図権を後継者に承継させる方法があります。中小企業庁財務課長の私的研究会である「信託を活用した中小企業の事業承継円滑化に関する研究会」から、遺言代用信託を活用するスキーム、他益信託を活用するスキーム、後継ぎ遺贈型受益者連続信託を活用するスキームが提案されていますが、現在、実務上広く利用されるには至っていません。
なお、信託銀行が扱う「遺言信託」という商品がありますが、これは遺言書を信託銀行が預かることを中心とする商品であり、ここにいう信託を活用した事業承継のことではありません。
小括
法的安定性を確保するにはやはり売買ですが、安定性以外にも考慮すべき要素はありますから、どの方法がよいかはケースバイケースになります。親族へ承継するにしても、どの方法によるべきか、慎重に判断する必要があるといえるでしょう。