事業承継対策において最も問題になるのは、自社株式の評価です。自社株式の評価は相続税・贈与税の税額算定の際に顕著に問題になりますが、企業内承継における売買代金の調達や、遺留分減殺請求がなされた場合など、税額算定以外の場面でも問題になります。
そこで、これから、自社株式の評価をめぐる問題について検討していくことにしましょう。
まず今回は、前提となる税務会計と企業会計の違いを検討しましょう。
全ての企業は確定申告をしなければなりませんから、決算書や附属明細書を作成しているはずです。経営者としては、経理担当者や税理士が真面目に仕事をしてさえいれば、決算書に記載されている数字が会社の状況を表す唯一の数字であると考えているかもしれません。
しかし、税務会計と企業会計(財務会計ともいいます)とは違うものです。ここを理解しておかないと、会社について把握していた数字が場面によって通用しない、というケースに驚くことになるかもしれません。税務会計と企業会計、一体何が違うのでしょうか。
何のための会計か
税務会計は、税金の計算をするために使います。そこでは、税金を徴収する側(国・地方自治体)からすると利益が多い方がいいのですが、企業側からすると利益は少ない方がいいことになります。
一方で、企業会計は、会社の状況を知りたい株主や債権者等のステークホルダーに対して、会社の財務状況を説明するために使います。このとき、株主や債権者としては、利益が過大に計上されていては困ります。しかし、企業側からすると、利益が多く出ているように見えた方がいいことになります。
税務会計と企業会計の違いを式で表すと、以下のとおりとなります。
企業会計 利益=収益-費用
益金≒収益 損金≒費用
何が違ってくるのか
税務会計は、税金を徴収する側である国が認めた分しか損金として認められません。将来生じるであろう費用であっても、未だ発生していないのであれば損金として計上してはいけないことになります。また、飲み食いした支出については、国が認めた範囲でしか損金として計上できないことになります。
一方で、企業会計においては、将来生じるであろう費用であっても、事前に株主・債権者に対して説明するために、現時点で費用として計上すべきものがあります。例えば引当金を積むのは、こういう理由からです。また、飲み食いの費用についても、使ってしまって利益を圧迫するのであれば、税務会計上は損金として認められないとしても、費用として計上しなければならないのです。
企業会計と税務会計の調整
企業会計と税務会計の調整ですが、建前としては、企業会計によって計算された利益を基礎として、税務申告の際に、例えば法人税においては確定申告書の別表4において調整されます。制度としては、企業会計も税務会計も両方が行われることになっているのです。
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申告調整
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税務会計
しかし、同族会社である中小企業においては株主に対して説明をする必要がほとんどありませんので、税金対策を優先して、企業会計の時点で、公正な会計慣行からは本来許されない処理をするケースがまま見られます。見方によっては、このあたりが税理士の腕の見せ所なのかもしれません。
ここで行われる処理は、税金を少なくするように、すなわち、利益を少なくするようにするための、いわばグレーな処理です。税務署との間でグレーを黒と判断されなかったとしても、例えば裁判所に対してはそのまま通用しないことがあり得ます。裁判所が鑑定嘱託した会計士に、本当はもっと利益が出る会社でしょう、と判断されることがありうるのです。
まとめ
事業承継について考えるときには、企業会計と税務会計の違いを意識してスキームを組み立てなければなりません。もちろん事業承継で一番大きな問題は税金問題ですから、税理士を頼らざるを得ないのですが、税金の申告以外の場面まで想定してくれているかどうかは要チェックです。
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