967条)。それぞれの種類毎に、注意すべき点があります。ここでは、遺言書作成のポイントを解説します。
民法に規定されている普通方式の遺言には3種類あります(民法3種類の遺言書
1.自筆証書遺言
自筆証書遺言は、その名のとおり、遺言者が自ら書いた遺言です。有効と認められるには、以下の方式を守らなければなりません(民法968条)。
- 全文を自筆で書く
- 日付を書く
- 署名をする
- 押印する
内容の訂正には、厳密な方式が要求されます。万が一無効となっては困りますので、書き損じの場合には、初めからすべてを新しく書き直した方がよいでしょう。
遺言執行者は指定しなくとも遺言が無効になることはありませんが、遺言のスムーズな執行のためには、遺言執行者を指定しておくべきでしょう。
遺言執行のためには、家庭裁判所で「検認」の手続を経ることが必要で(民法1004条1項)、手続に数週間かかります。世の中には、四十九日前に遺言執行のために動くことに抵抗を示す方もいます。そういう方に配慮するとなると、遺言の執行までに更に時間がかかることになります。
このように、自筆証書遺言は法的安定性に欠け、執行に時間もかかりますので、事業承継のためにはお勧めしません。
2.公正証書遺言
公証人に作成してもらう遺言です(民法969条)。国民の私的な法律紛争を未然に防くための設けられた制度で詳細は法務省のサイトをご覧ください。
2人の証人とともに公証役場に赴き、作成してもらいます。内容の確認や費用の見積もり等がありますので、いきなり公証役場に行ってその場で作ってもらうというわけにはいきません。自力で依頼することも可能ですが、専門の士業に依頼したほうがスムーズです。
公正証書遺言の標準的な作成手順と必要書類は、下の表のとおりです。
遺言書の原案作成 | 遺言書の原案作成時には、以下の書類を用意しましょう。
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証人2名の依頼 | 証人の住所、職業、氏名、生年月日が必要です。可能な限り、証人には以下の書類を用意して貰いましょう。
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公証人への依頼 | 用意した書類を持参して、公証人に依頼します。 公証人から、追加する書類の指示を受け、費用の見積もりをしてもらうなど準備を進めます。 準備の目処が付いたら、公正証書作成の日時を打ち合わせます。 |
遺言公正証書の作成 | 証人2名とともに公証役場に出頭します。遺言執行者は、証人になっていなければ出頭する必要はありません。 遺言者は実印を、証人は認め印を持参します。 遺言書の口授を受け、内容が間違いないことを確認した上で、遺言者と証人2名が署名・押印します。 通常は、30分以内に手続が終了します。 手数料を現金で納付します。 |
遺言公正証書の保管 | 遺言公正証書の原本は、公証人役場に保存されます。 遺言者には正本が交付されます。必要があれば、謄本の交付を受けることもできます。 |
自筆証書遺言の場合に必要な「検認」のような遺言執行のために特段の手続は不要ですし、公証人が遺言者の意思能力の確認や本人確認をしますので、遺言が無効とされるリスクが少なく、遺言としては最も法的に安定している方法です。もちろん、身代わりによって遺言書が作成されるリスクが皆無ではありませんので(もちろん犯罪ですが)、完璧とまではいきません。
3.秘密証書遺言
秘密証書遺言は、自分が死ぬまで遺言書の内容を他人に秘密にしておきたいときにする遺言です(民法970条)。遺言者が作成した遺言書に、公証役場で封を施してもらいます。遺言執行のためには、自筆証書遺言と同様に家庭裁判所における検認手続が必要です。
手続が煩雑な割に公正証書遺言ほど確実ではありませんので、作成されるケースは少ないです。自筆証書遺言と同様に検認手続に時間がかかりますので、事業承継のためにはお勧めしません。
遺言書作成のポイント
- 「その他一切の財産を○○に相続させる(遺贈する)」との条項も忘れずに記載しましょう。財産の記載漏れがあると、漏れた分については遺産分割協議をしなければなりません(協議でまとまらなければ、調停・審判の手続が必要になります)。包括的な条項を入れておけば安心です。
- 法定相続人に対して財産を承継させる場合には、「遺贈する」ではなく「相続させる」と記載しましょう。不動産について、指定された者が単独で相続でき、賃借権を承継する場合の所有者の承諾や、農地の場合の知事の許可が不要となります。以前は登記の際の登録免許税が安いというメリットもありましたが、現在は法定相続人に対しては同じ評価額の0.4%とされています。
- 無用な相続争いを避けるため、借入金についても、誰が負担するか記載しましょう。債務の負担について遺言書に記載しても、債権者は相続放棄しなかった法定相続人に対して法定相続分に応じた金額を請求できますが、相続人間ではその相続人が相続債務を全て承継することになりますから、債権者に弁済した相続人は、債務を負担すべき相続人に対して求償することができます。また、債権者との交渉により免責的債務引受によって債務を負担すべきとされた相続人に債務を集中できる可能性もあるでしょう。
- 遺言は、何度でも撤回することができます。何通か作った遺言書で矛盾する内容が記載されている部分については、一番最後に書かれた遺言書が有効とされます。将来どうなるかわからないとしても、事業承継を考えたならば、まずは作成しておきましょう。
参考リンク
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