13 MBO・EBOの注意点

13 MBO・EBOの注意点事業承継119番前回検討したとおり、MBOとはManagement Buy Outの略で会社経営陣による会社の買収をいい、EBOとはEmployee Buy Outの略で従業員による会社の買収のことをいいます。株式買取・保有のための会社(SPC)を利用したMBO・EBOは、金融機関とファンド・VCから事業承継のための資金を調達するための有力なスキームであることは間違いありません。しかし、スキームが複雑であるために、意図しない結果に終わることが少なくありません。

MBO・EBOをめぐる当事者の利害関係

MBO・EBOには様々な利害関係人が登場し、それぞれの思惑によって行動します。MBO・EBOによる事業承継を成功させるには、会社の業績の変動によって生じうる事態をある程度想定しておくことが重要です。

SPCが金融機関からの融資を順調に返済するには、返済原資を事業会社がSPCに対して配当しなければなりませんが、必ずしも容易なことではありません。この返済計画を慎重に検討しなければ、事業会社が多額の配当をSPCに対して支払わなければならないこととなり、社内留保の流出により事業会社の経営を圧迫しかねません。

また、事業会社の経営が悪化するとSPCへの配当、ひいてはSPCによる融資の返済が困難となり、SPCの倒産のリスクが生じます。そもそも金融機関はSPCが倒産しても困らないように、そのリスクを織り込んで対策をしている場合が多いですので(旧経営者に対して支払った売買代金分の預金に担保を設定するなど)、SPCの倒産リスクは経営者・後継者側で十分検討しなければなりません。スキームを支えるのに十分なキャッシュフローがあるかの判断が、最重要です。

ファンド・VCが出資する際、多くの場合は、一定期間での上場を出口として想定しています。上場するということは、極端に言うと、会社が社会のものになるということです。会社が社会のものになるということは、会社の在り方そのものを大きく変えるということであり、相当な痛みも伴います。いざMBO・EBOを実施してみると、準備段階では想定しなかったような経営介入がありえます。上場できなければ、ファンド・VCは十分なリターンを受けられません。リスクマネーを扱うファンド・VCからすると当然のことなのですが、後継者がこのことを十分理解していなければ、トラブルの種になるのです。上場は、MBO・EBO後に、やはりやめた、というわけにはいかないのです。MBO・EBOにより上場を目指すのであれば、ファンド・VCの立場をしっかりと理解しておくべきです。

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もう一つの出口

このように、MBO・EBOは、上場を出口として想定するケースが多く、金融機関やファンド・VCも、そのように説明することが多いはずです。ネット上で検索した結果も、そのほとんどが上場を出口として描いています。上場までに想定する期間も、4~5年、あるいは10年程度と説明されることが多いはずです。

しかし、当初上場を想定していたとしても、ファンド・VCにとって、上場だけが利益を確保するための出口ではありません。世間の企業は、上場を目指せる企業ばかりではありません。

もう一つの出口とは、どこなのでしょうか。

政府系・銀行系などの一部のファンドを除き、ファンド・VCは、投資家との関係で、高い利回りを実現しなければなりません。高い利回りを実現するには、できるだけ早く収益を現実化しなければなりません。ファンド・VCの多くはリスクの高い案件に投資をしていますから、必然的にリターンも高くなければいけません。

一方で、企業は、実は、コストをカットすることによって確実に損益を改善させることができます。無理なコストカットは将来の成長力を削ぐことになるかもしれませんが、短期的には多くの財務上の数値を改善させます。財務上の数値が改善されると、M&Aの際の対価が上昇します。

そうすると、MBO・EBO終了後にすぐさま厳しくコストカットして第三者に売却することが、ファンド・VCにとって最も確実に高利回りを実現するための方法ということになります。

MBO・EBOの出口として上場を想定していたとしても、M&Aも出口となり得るということを理解しておかなければなりません。但し、近年では、最初からM&Aを出口としたスキームを明確に示した上でMBO・EBOを実行するファンドもあります。逆に、銀行系のファンドの中には、一定期間経過後に後継者に株式を譲渡する前提で出資するファンドも現れています。金を出すというだけでなく、MBO・EBO後のハンズオンを売りにしているファンドもあります。

相手がメガバンクであったり、有名なファンドであったからといって、それだけを理由に信用していいものではありません。今進めているスキームが、自分の希望に沿ったスキームであるのか。検討中の出資のための契約書が、自分の想定した出口を向いた内容になっているのか。「何かおかしい」と思ったときは、一度立ち止まってしっかり考えてみるべきです。

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