03 事業承継における2つの視点

03 事業承継における2つの視点事業承継119番

中小企業における経営者の意味

中小企業においては、経営者は、経営に関する意思決定をするという地位にありますが、それに加え、企業の所有者としての地位にあります。そして、自社株式を所有するほか、事業用資産について、経営者個人が所有する土地建物等を企業の事業用資産として使用しているケースがみられます。

  • 意思決定の主体としての地位
  • 企業・資産の所有者としての地位

事業承継の場面では、意思決定の主体と企業・資産の所有者が変更されていくことになります。事業承継における問題点の洗い出しと対処についても、意思決定の主体の承継と、企業・事業用資産の承継という2つの視点をもっておくことが必要です。

※中小企業庁発行の「中小企業事業承継ハンドブック29問29答」では、(1)経営そのものの承継、(2)自社株式・事業用資産の承継の両面の配慮が必要としています。

意思決定の主体の変更に関する課題

オーナー企業の意思決定の特徴と、意思決定方針の変更の必要性

事業承継を検討しなければならない同族経営企業の多くでは、トップダウン型の意思決定がなされています。事業承継を円滑に進めるためには、このようなトップダウンの特徴をそのまま生かせるか、それとも意思決定の方法を変えていかなければならないかの判断が重要になります。

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トップダウン型の意思決定を維持できるかどうかは、何よりも後継者のリーダーシップや能力・資質にかかる問題です。

しかし、事業承継の円滑化と古参幹部や社員からの理解には相関関係があるとされており、後継者は、幹部や社員とのコミュニケーションを工夫し、風通しの良い職場づくりに努力する必要があるとされています。トップダウン型の意思決定を維持しながらこのような環境を作るには、後継者によほどの能力とリーダーシップが必要とされるでしょう。

一方で、トップダウン型の意思決定の方針を、ボトムアップ型ないし中間型に変更するのであれば、企業における意見の吸い上げ方、会議のあり方などを変更しなければなりません。ボトムアップの前提となる社員の自律性を引き出すために、社員の評価方法についても変更を検討する必要があるでしょう。

後継者育成の必要性と方針

企業の意思決定の方針のあり方によって、後継者に求められる役割は当然異なってきます。

意思決定の方針をトップダウンのまま変更しないのであれば、後継者の育成は、帝王学の伝授、財務・総務を含めた現場の経験、人脈の開拓などで事足りるかもしれません。しかし、そうでなければ、マネジメントを学ばせるなどの必要性が出てくるでしょう。

幹部社員の育成

オーナー企業とはいえ、現在も経営者の右腕ともいうべき幹部社員がいることでしょう。しかし、それはあくまで現経営者を支える幹部社員です。事業承継後に、後継者にとって頭が上がらない存在になってしまっては仕方がありません。事業承継にあたっては、旧経営者の右腕とも評価できる幹部社員と後継者とが反発する場面が多いと言われています。

できれば、事業承継にあたっては、旧経営者の右腕も同時に引退すべきです。

しかし、後継者は一人で企業を支えられません。そうであれば、後継者の育成だけでなく、後継者を支える幹部社員の育成もあわせて行わなければなりません。

さらに、事業承継にあたっては、後継者が信頼できるブレーンを持っていると、他の幹部や社員からの理解が得られやすいとも言われています。こういった面からも後継者を支える幹部社員の育成が必要といえるでしょう。

後継者への権限の委譲

後継者への権限の委譲は、全面的に委譲することがポイントです。全面的な委譲にはタイミングをはかる必要がありますが、一部しか権限委譲せず旧経営者がいつまでも権限を握ることは、事業承継の障害になると言われています。

システム化の必要性

これまで見たような問題があるとしても、親族内の承継においては、まだ経営の仕組みを変更する必要性が少ないといえます。

しかし、幹部社員に企業を承継するような場合には、いわゆる個人商店から脱却して経営のシステム化をはかり、会社自体を「譲れる会社」にしなければなりません。

さらに、社外の第三者への承継をはかる場合には、後継者の育成は課題になりませんが、経営のシステム化をもう一段進め、会社自体を「売れる会社」にする必要が出てきます。

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