作成者別アーカイブ: 弁護士 西尾雄一郎

賃料増減額請求排除の特約

・賃料増減額請求の特約

賃料の増減額については、法律上、貸主、借主のどちらからでも請求できることとされています。

この点、賃貸借契約期間中の賃料の変動を望まない当事者もいるはずで(特に事業者の賃貸人にこの傾向は強い場合が多いです)、その場合、賃料の増減額について当事者間で特約をすることが考えられます。

ところが、借地借家法は、賃料を増額しない旨の特約は有効とする一方、賃料を減額しない旨の特約は賃借人に不利な特約として無効としています。

ですので、たとえば「賃貸借契約期間中、賃料増減額は行わない」と特約条項を入れたとしても、賃料増額しないとの部分のみ有効で、賃料減額しないとの部分は無効となってしまい、賃貸人は特約条項があることで賃料増額ができない一方、特約条項があるにもかかわらず賃借人は賃料減額請求ができることになってしまいますので注意が必要です。

ただし、実務上の要請として、特に不動産ファンドなどが収益不動産の利回り等を決める際、将来に向かって賃料が減額されることはできるだけ排除したいと考えることがあり、このようなニーズを満たすために、定期借家契約に限って賃料減額請求権を排除できるとの借地借家法の改正が平成12年改正で盛り込まれました。

なお、賃料減額請求を排除することができるのは定期借家契約に限ったことで、定期「借地」契約においてはそのような定めがないのは注意を要するところです。

賃料自動改定特約と賃料増減額請求

借地の賃料増額請求については、契約条項の中で固定資産評価額の評価替えの時期に同評価額と賃料の額を連動させて決めるなどと規定する賃料自動改定特約を定めることが珍しくありません。

では、賃料自動改定特約があることから、同条項によらない賃料増減額ができないのか、すなわち賃料自動改定特約によって事実上賃料増減額請求を排除できるのかというと、判例はこれを否定しています(最判昭和31.5.15民集10巻5号496頁、最判昭和56.4.20民集35巻3号656頁、最判平成15.6.12民集57巻6号595頁)。

よって、賃料自動改定特約を定めたとしても、それとは別途当事者による賃料増減額請求が認められることになります。

次に、一般的には賃料増減額の当否及び相当賃料額を決めるにあたっては、直近の合意賃料から、賃料増額請求がなされた時期までの経済的事情の変動等を考慮することになりますが、賃料自動改定特約によって新賃料が定められている場合、新賃料が定められたときまでの経済的事情の変動を考慮の対象から除外できるかを争った事例があります。もし,上記の主張通り新賃料が定められたときまでの経済的事情の変動を除外できるとすると,賃料自動改定特約がある場合,賃料増減額の幅はかなり狭い範囲に限定されることになる可能性が高くなります。

結論から言うと最高裁は,「賃料自動改定特約は、賃貸借契約締結時における将来の経済事情等の予測に基づくものであり、自動増額時の経済事情等の下での相当な純賃料として当事者が現実に合意したものではない」と判示し(最判平成20.2.29),賃料自動改定特約によって新賃料が定められたときまでの経済的事情の変動を考慮の対象から除外することはできないと判断しています。

よって,賃料自動改定特約が存在したとしても、上記判断に当たっては、同特約に拘束されることはなく、上記諸般の事情の一つとして、同特約の存在や、同特約が定められるに至った経緯等が考慮の対象となるにすぎないことになります。