4.4 労働審判

4.4 労働審判社長のための残業代対策119番今回は、会社に対し労働者が残業代の支払いを求めて労働審判を申し立ててきた場合について勉強しましょう。

労働審判 とは

労働審判 とは、残業代請求をはじめとする給料の不払いや解雇等、個々の労働者と使用者との個別の労働紛争について、その実情に即して、迅速、適正かつ事項的に解決することを目的として、平成18年4月1日から施行された制度です(なお、組合活動等に関する集団的な労働紛争については、労働審判の対象外です。)。

労働審判の手続の概要

労働審判は、主に、相手方(申立を受ける側)の住所、居所、営業所及び事務所の所在地を管轄する地方裁判所で審理手続がなされます(労働審判法2条1項)。したがって、全国各地に支店を設けているような企業であれば、本社所在地に限らず、支店所在地の地方裁判所において、従業員との残業代請求に関する労働審判が係属する可能性があります。

そして、労働審判は、裁判官1名と労働審判員2名(使用者側及び労働者側、それぞれの立場で労働に関する専門的知識を有する者1名ずつ)の3名で組織された労働審判委員会が、審理に当たりますが(同法7条)、その手続は、非公開で進められ(同法16条)、審理の回数も、原則として3回以内と定められています(同法15条2項)。

労働審判委員会は、審理の中で、両当事者の主張を聞き、適宜証拠調べを行いながら、まずは、調停による解決を図るよう試みますが、調停による解決に至らない場合には、審判を行います(同法20条)。

労働審判委員会が出した審判に不服がある場合には、両当事者ともに、審判書の送達又は審判結果の告知を受けた日から2週間以内に、裁判所に対して、異議を申し立てることができます(同法21条1条)。この異議が適法なものであれば、労働審判手続申立てのときから、通常訴訟が提起されていたものとみなされ(同法22条1項)、以後、通常の訴訟手続で審理されることとなります。

従業員から労働審判を提起された場合における対応策

前述のとおり、労働審判は、迅速に紛争を解決することを目的として新たに設けられた制度であることから、労働審判委員会は、概ね、1回目の審理期日までに、事実の取調べを終える運用となっています。そのため、両当事者ともに、裁判所から指定された1回目の期日までに、それぞれの主張と立証をほぼ終えなければなりません。

申立人は、十分準備をしたうえで労働審判を申し立てるため、上記運用による弊害は比較的小さいと言えますが、申立てを受ける側、すなわち、多くの場合使用者側は、裁判所から、第1回の労働審判期日まで約1か月程度しかない状況で、呼出しを受けることとなりますから、準備への負担は大きいものとなります。

また、指定された第1回目の労働審判期日は、期日の変更が認められないことが多いです。

そのため、我々弁護士が、相手方として労働審判を受任した場合を例に挙げますと、弁護士は、申立てに対する反論書面(多くの場合には、数十ページに亘ります。)を作成するだけでなく、証拠収集の1つとして、多くの関係者から事情を聴取し、その関係者からの聴取結果を「陳述書」として作成する等、通常の訴訟であれば、半年から1年程度の間に行う作業を、約2、3週間以内に行わなければなりませんので、業務の多くを当該労働審判に費やすこととなります。

よって、従業員から労働審判が提起された場合には、何より先に弁護士へご相談されることをお勧めします。

(弁護士 太田 理映)