2.5 不活動時間と労働時間


2.5 不活動時間と労働時間 – 中小企業残業代119番これまで見てきたとおり、残業代の計算における労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれてたものと評価することができるか否かによって、客観的に定まるものと解されています(最一小判平12.3.9 民集54-3-801三菱重工業長崎造船所事件)。

仮眠時間やマンションの住み込み管理人、宿直・呼びだし待機のような実作業に従事していない不活動時間 は、どのような場合に指揮命令下に置かれたものと評価されるのでしょうか。以下に判例・裁判例を概観しましょう。

判例・裁判例

大星ビル管理事件
大星ビル管理事件
不活動時間の労働時間性に関するリーディングケースとなるのが、 大星ビル管理事件(最高裁平成14年2月28日民集56巻2号361頁)です。ビル管理会社の従業員の仮眠時間が労働時間に当たるかが争われましたが、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には,労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれていると判示しました。三菱重工業長崎造船所事件を引用しつつ、「労働からの解放が保障されているか否か」という基準と「労働契約上の役務の提供が義務付けられているか否か」という具体的基準を用いて判断した点に意義があるとされています。

大星ビル管理事件最高裁判決による判断基準

  • 労働からの解放が保障されているか否か
  • 労働契約上の役務の提供が義務付けられているか否か
その後の判例・裁判例
大林ファシリティーズ事件
マンションの住み込み管理人の管理人室の隣に設けられた居室における不活動時間の労働時間制が争われた事例として大林ファシリティーズ事件(最高裁二小平19.10.19判決・民集61巻7号2555頁)があります。マンションの住み込み管理人という事例に、大星ビル管理事件の判断枠組みに従って判断した点に意義があるとされています。
同事件では、住み込み管理人が自宅としての私的空間である居室で過ごす所定労働時間後の時間について、会社が午前7時から午後10時まで管理員室の照明を点灯しておくよう指示していたこと、会社から配布された業務マニュアルには、所定労働時間外においても住民や外来者からの宅配物の受渡し等の要望が出されたときは、その都度これに随時対応すべき旨が記載されていたことを理由に、午前7時から午後10時までの時間について事実上待機せざるを得ない状態に置かれていたものとして、黙示の指示があるとして労働時間性を認めましたが、所定労働時間中の病院への通院や犬の散歩をしていた時間については、労働契約上の役務の提供が義務付けれていないとして労働時間性を否定しました。
奈良県医師時間外手当事件
勤務医の宿日直勤務及び宅直勤務において労働時間性が争われた事例として奈良県医師時間外手当事件(最高裁三小平成25.2.12決定判例時報2062号152頁)があります。宅直・呼び出し待機の事例について、三菱重工業長崎造船所事件、大星ビル管理事件、大林ファシリティーズ事件によって確立された判断枠組みに従って判断した点に意義があるとされています。結論としては、宿直勤務は病院の指揮命令下にあることを認め、宅直勤務については、本制度が産婦人科医不足を補うために産婦人科医間の自主的な取り決めに基づくもので、病院にも宅直に関する内規はないことなどの事実関係の下では、病院の指揮命令下にあるとはいえないとしました。
大道工業事件
ガス配管の復旧工事を担当する会社が、修理依頼がある場合に備えて雇用する労働者に対し所定労働時間外においてシフト制により工事対応を義務付けていたところ、シフト担当の労働時間性が争われた事例として大道工業事件(東京地裁平20.3.27判決・労判964号25頁)があります。
同事件では、修理依頼の頻度が1日1回以下と少なかったこと、シフト担当時間と比較して実稼働時間が極めて少なかったこと、労働者はシフト担当時間において寮の自室でテレビを見たりパソコンを操作したりすることなどして過ごし外出の規制もないなど自宅に過ごすのとさほど異ならなかったことなどの事実から、「原告ら従業員は高度に労働から解放されていたとみるのが相当である」と判示し、労働時間制を否定しています。

結論

以上のとおり、判例ないし裁判例では、「労働からの解放が保障されているか否か」という基準と「労働契約上の役務の提供が義務付けられているか否か」という基準を用いて事実関係に即して労働時間性を判断しているといえます。
(弁護士 西尾雄一郎)