1.6 労働時間・金額の端数の処理

1.6 労働時間・金額の端数の処理社長のための残業代対策119番これまで、基本的な残業代の計算方法について見てきましたが、少し細かいことですが、ここで端数の処理について見ておきましょう。実際に残業代を計算するときには、必ずついて回る問題です。

使用者は労働時間を適正に把握する義務を負っている

労働基準法は、賃金全額払いの原則(24条1項)を定め、時間外労働や休日労働について厳格な規制を設け、賃金台帳の作成義務(108条)を定めていますので、使用者は、労働者の労働時間を適正に把握する義務を負っていると解されています。

そして、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」との通達によって、使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法の一つとして、タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること、とされています。

労働時間に端数が生じたときの取り扱い

しかし、労働時間をタイムカード等を基礎として把握し、1か月の残業時間を合計したところ1時間未満の端数(残業時間)が生じることがあります。
本来、短時間であっても、現実の労働時間には賃金を支払わなければなりません。計算を簡単にするために常に切り捨ててしまうと、賃金全額支払いの原則(労働基準法24条1項)に反し、違法となります。

一方で、残業代計算、支払の事務が非常に手間のかかる場合はこれを簡便にしたいところです。

そこで、30分未満の労働時間を端数として切り捨て、30分以上を1時間に切り上げて1時間ずつの残業代を計算することは、常に労働者に不利となるものではありませんので、違法とはされていません(昭和63.3.14基発150号)。なお、常に切り捨てるとの処理は、常に労働者の不利となりますから、違法となります。

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タイムカードの打刻時刻と始業時

就業規則等に「始業時」が定められますが、始業時間よりも早く職場に到着してタイムカードに打刻することが一般的でしょう。

労働基準法の労働時間は、先に述べたとおり「労働者が指揮監督のもとにある時間」で判断されます。そのため、始業時前に職場で交代引継や朝礼等が行われている場合、始業時間よりも前の時間が労働時間に含まれることがあります。また、タイムカードの打刻時間を以て労働時間として管理していた等場合には、タイムカードの打刻時刻そのものが労働時間の始期として認定される事例も多くあります。

一方で、始業時よりも早くタイムカードを打刻していたとしても、使用者の指揮命令がなく、労働時間と見られない時間であれば、タイムカードの打刻時間ではなく、始業時が労働時間の始点となります。

終業時について

終業時においても作業上必要な引継や後始末等が行われた場合は労働時間となりますが、入浴や着替えなどの時間は特段の事情の無い限り、労働時間にはなりません。

また、タイムカード打刻時刻と終業時刻とのずれが短時間の場合には、定刻に労働が終了したものと推定されることもありますが、逆に使用者の側で十分な反証がなされない場合は、むしろタイムカードの打刻時間どおりの労働時間と認定した事例も多くあります。

支払うべき賃金を計算したところ1円未満の端数が生じたとき

賃金を計算したところ、1時間当たりの賃金額、割増賃金額に1円未満の端数(銭、厘)が生じることがあります。その場合は、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること(いわゆる1円未満四捨五入)は、違法ではありません。

また、就業規則の定めに基づき、1か月の賃金支払額に100円未満の端数が生じた場合、50円未満の端数を切り捨てて、それ以上を100円に切り上げて支払うことは、賃金支払の便宜上の取り扱いと認められるから、法24条違反とは取り扱わないとされています(昭63.3.14基発150号 )。

なお、一般的に債務を現金で支払う場合、「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」第3条によれば、特約無い場合は1円未満の端数につき、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げて計算します。

このように、端数の処理にあたって、無償の労働時間が生じてしまうような処理は認められませんが、労働者の不利にならない四捨五入的な合理的処理が認められています。

(弁護士 大河内將貴)